ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

若年成人の自殺念慮に対するスマートフォン治療アプリケーションの効果

自殺行動と自傷行為は青年期によく見られ、自傷行為の理解と治療における最近の進歩、および自傷行為と自殺と自殺未遂のリスクとの関連性にもかかわらず、自殺死亡率の低下の進展はなく、過去60年間の自殺死亡率の実質的な低下はありません。
自殺は、西欧の青年における2番目または3番目の主要な死因であり、発展途上国における重要な死因です。

世界的には、全自殺の約3分の1が15〜29歳で発生しており、オーストラリア、英国、米国を含む多くの国で若者の自殺率が上昇しています。

自殺に関して、筆者は過去にいくつかの記事を書かせていただきました。

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我が国の自殺者数は、平成10年に3万2,863人、15年には統計を取り始めた昭和53年以降で最多の3万4,427人となり、その後3万2千人から3万3千人台で推移した後、平成22年以降は10年連続の減少となっており、令和元年は2万169人となりました。前年に比べ671人(3.2%)減少し、昭和53年の統計開始以来過去最少となっています。

しかしそれ以降は横ばい状態です。

自殺に関しては、当たり前ですがその予防が非常に重要です。

自殺念慮は若い人たちの自殺未遂の主要なリスクであり、自殺念慮の重症度を軽減することは自殺予防の重要な目標です。


若年層の自殺予防に関する取り組みとして、治療用スマートフォンアプリは有効かー。オーストラリア・University of New South WalesのMichelle Torok氏らは、治療用スマホアプリ「LifeBuoy(ライフブイ)」を用いた二重盲検ランダム化比較試験(RCT)を実施し、結果をPLoS Med(2022; 19: e1003978)に報告しました。

PLoS Med. 2022 May; 19(5): e1003978.
Published online 2022 May 31. doi: 10.1371/journal.pmed.1003978
若年成人の自殺念慮に対するスマートフォン治療アプリケーションの効果:オーストラリアでのランダム化比較試験の結果
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9154190/

 

対象
対象は、2020年5月にソーシャルメディアやFacebookのターゲット広告を通じて募集した同国在住の若年層(18〜25歳)455人。女性が84.4%(384人)を占め、平均年齢は21.5歳でした。過去12カ月間に自殺念慮を抱き、スマホを保有していることなどを組み入れ条件としました。応募前1カ月以内の自殺企図者、精神病または双極性障害患者などは除外しました。
455人をLifeBuoyを使用する介入群228人と、LifeBuoyを模したアプリを使用する対照群227人にランダムに割り付け、6週間使用後の自殺念慮抑制効果を比較しました。

結果
両群における自殺念慮評価(SIDAS;Suicidal Ideation Attributes Scale)スコアの変化を比較しました。その結果、ベースラインからアプリ使用終了時にかけてのSIDASスコアの変化は、介入群が−8.05点(95%CI −9.92〜−6.18点、P<0.001)、対照群が−3.14点(同−5.04〜−1.23点、P=0.001)と、介入群でスコアの減少(改善)幅が有意に多かった(P<0.001)。
また、アプリ使用終了から3カ月時の評価でも同様の結果が得られました(介入群−1.30点 vs. 対照群−0.34点、P=0.007)。ただし、抑うつや不安などメンタルヘルスに関する評価スコアに両群で差はありませんでした。

結論
LifeBuoyは、コントロールアプリケーションであるLifeBuoy-Cと比較して、自殺念慮の重症度の優れた改善に関連していましたが、二次的なメンタルヘルスの結果には関連していませんでした。

以上から、Torok氏らは「LifeBuoyは若年層における自殺念慮を低減させる可能性が示唆されました。しかし、他のメンタルヘルス問題に対する効果は示されなかった」と結論。「デジタル治療は、ターゲットを1つに絞ったデザインにすることでより効果を発揮するかもしれない」と考察しています。

多くの国で自殺率が増加している若者。その若者で利用率の高いスマホを利用して特別なアプリを開発し、自殺念慮を減少させました。

考察

LifeBuoyアプリケーションは安全であるように見え、介入グループの若年成人は最終フォローアップで自殺未遂を報告していませんでした。
どの若者がこの介入から最も恩恵を受ける可能性があるかなど、調査結果の完全な臨床的意義を理解するには、さらなる調査が必要です。

LifeBuoyが、対面治療にアクセスできない、またはアクセスしたくない、または他の形態のメンタルヘルス治療を補完することを望まない若者の自殺念慮のケアへのアクセスを増やすのに役立つかどうかを確認するには、この最初の試験の結果を複製し、将来の臨床試験で自殺行動に拡張する必要があります。

実際の臨床試験での効果が期待できそうです。

今回も最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。