ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

臨死体験の正体は?

おはようございます。

私事ですが、職場が変わり忙しい毎日を過ごしており、ブログも休みがちになっています。その中でも様々な論文にはできるだけ目を通すようにしています。

今日は少し重い内容ですが、臨死体験にかかわる研究をご紹介します。

RESEARCH ARTICLE
NEUROSCIENCE

瀕死の人間の脳におけるガンマ振動の神経生理学的結合と接続性の急増

2023 年 5 月 1 日
120 ( 19 ) e2216268120
https://doi.org/10.1073/pnas.2216268120

Jimo Borjigin と彼女のチームによる米ミシガン大学(University of Michigan)の神経集中治療室 (NICU) で死亡した患者4名の研究です。

研究は、4 人の意識不明の患者 (実際には昏睡状態の患者) を追跡し、生命維持のサポートが取り消され、死の瞬間まで続きました。3 人は、長期にわたる心停止の状況で重度の無酸素脳損傷を負っていました。心臓は再開したものの、脳の損傷は深刻でした。4人目は大脳出血。したがって、4人の患者全員が昏睡状態であり、脳死ではありませんが、反応は全くない患者です。

チームは脳波リードを頭部に、心電図リードを胸部に、その他のモニタリング機器を適用して、昏睡状態で無反応の患者が死亡したときに発生した生理学的変化を観察しました。

準備が整うと研究チームは患者たちの生命維持装置を停止しました。
すると停止から数秒で、4人のうち2人の脳から、先行研究で指摘されていたのと同じく活発なガンマ波が観測されました。

その結果、患者たちの脳の意識や思考、記憶にかかわる脳領域において、死ぬ直前に主にガンマ波からなる「爆発的な脳活動」が起きていることが判明しました。

同様の脳活動パターンは夢や幻覚を見ているときや、幽体離脱を経験している患者たちで観察されるものと酷似していたとのこと。

そのため研究者らは、死ぬ間際の脳で起こるガンマ波のバーストが「臨死体験の正体」であると結論しています。

一方、今回の研究には避けられない弱みも存在します。

患者が全員死亡しているため、他の臨死体験の研究のように体験内容を聞き出すことができないからです。

そのため、患者の体験内容と脳の活性パターンがリンクしていたかを証言にもとづいて判断することはできません。

ですが今後、臨死体験の脳科学的な理解が進んでいけば、心停止後の隠れた脳活動を突き止め、人間の意識のメカニズムを解明する手助けになるでしょう。

はっきりさせなければいけないのは、この研究は、人が死ぬとどうなるかという問題には答えていません。死後の世界や、魂の存在や永続性については何も語っていません。しかし、この研究が行っていることは、神経科学における信じられないほど難しい問題、つまり意識の問題に光を当てることです。 そして、このような研究が進むにつれて、意識の根源は神の息吹や生きている宇宙のエネルギーからではなく、脳という非常に複雑な機械の非常に特定の部分から来ていることを発見するかもしれません。

最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。