ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

高齢者にとって命に関わる可能性のある骨折部位

おはようございます。筆者は今まで整形外科医として患者さんとお付き合いさせていただきました。過去にいくつかの病院での数多くの骨折患者さんの診療を通して、年齢、抱えている病気の多さ、それまでの日常生活上の活動性などがその患者さんの予後に影響することは経験としてわかっていました。

今回骨折を起こしたときにその患者さんの命にかかわる骨折とはどんな状態なのか、ヒントとなる論文がありますのでご紹介いたします。

JAMA Netw Open. 2022 Oct; 5(10): e2235856.
Published online 2022 Oct 10. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2022.35856
デンマークの成人における骨折後の多発性疾患と過剰死亡率の関連

骨折後の死亡率に対する多疾患併存の複合的な寄与は、多疾患併存患者におけるより包括的なアプローチの必要性を強調しています。
健康障害間の相互作用に関する知識が限られていると、最適な患者ケアが妨げられます。併存疾患は、50 歳以上の骨折患者によく見られるため、これらの骨折は、障害間の相互作用を研究するための有用な環境を提供します。

結果
骨折が確認された 307,870 人の参加者のうち、95,372 人が男性 (31.0%; 骨折時の平均 [SD] 年齢、72.3 [11.2] 歳) で、212,498 人が女性 (69.0%; 平均 [SD] 骨折時の年齢、74.9 歳) でした。 [11.2]年)。中央値 6.5 (IQR、3.0-11.0) 年の追跡期間中に、41,017 人の男性 (43.0%) と 81,727 人の女性 (38.5%) が死亡しました。

骨折患者のほぼ半数 (42.9%) には、少なくとも 2 つの併存疾患がありました。骨折時の合併症は、低多発性疾患(男性 60.5%、女性 66.5%)、心血管疾患(男性 23.7%、女性 23.5%)、糖尿病(男性 5.6%、女性 5.0%)、悪性疾患(5.1%)に分類されました。および肝臓および/または炎症性クラスターの混合(男性のみで5.1%)。
多疾患併存および近位または下肢骨折は死亡リスクの増加と関連しており、悪性クラスターの股関節骨折患者で最高の過剰死亡率が見られました (1 年過剰死亡率: 40.8% [95% CI: 38.1%-43.6%])。多発性疾患と骨折の組み合わせは、死亡率との関連を悪化させ、どちらか単独よりもはるかに大きなリスクをもたらしました。

討論

糖尿病患者の中で糖尿病の合併症が記録されているのはごく少数ですが、死亡した患者のほぼ全員が糖尿病クラスターに属していました。
心不全、慢性閉塞性肺疾患、認知症、または悪性疾患の病歴は、股関節骨折後の死亡リスクの増加と関連しています。私たちの研究では、併存疾患の特定のクラスターは、骨折や加齢によるリスクよりも、過剰な骨折後の死亡率と関連していました。最も重要なことは、多疾患併存と骨折部位の特定の組み合わせが複合死亡リスクの増加を示し、それは多疾患併存または骨折のみに起因するものよりも大きかったことです。たとえば、股関節骨折を伴う悪性クラスターの患者の過剰死亡率は、股関節骨折または悪性クラスターに属する患者のそれよりもそれぞれ約 2 倍および 6 倍大きかった。
私たちの調査結果は、合併症がなく、コントロールが良好な患者は、一般集団と同様の骨折後の死亡リスクを経験する可能性がありますが、進行した疾患の患者は、骨折後に独自に脆弱であり、骨折予防へのより積極的なアプローチの恩恵を受ける可能性があることを示唆しています.特にガイドラインの推奨事項が矛盾する場合は、共存する疾患を別々に検討する必要があります。

結論
このコホート研究の調査結果は、自然に異なる多疾患クラスターにクラスター化された付随疾患が、骨折後の過剰死亡率と関連していたことを示唆しています。多疾患併存と近位骨折の組み合わせは、死亡率の複合的な増加をもたらし、高リスク患者に対するより包括的なアプローチの必要性を強く示しています。

高齢者の骨折では、骨折部位が体の中心に近い場合や患者に基礎疾患がある場合に死亡率が高いことが、新たな研究で明らかにされました。この知見は、骨折後に特に集中的な治療を必要とする患者を医師が見極める上で役に立つ可能性があります。        潜在クラス分析から、骨折時点での多疾患併存(マルチモビディティ)の状態は、疾患が1つまたは何もない比較的健康な(低マルチモビディティ)グループ(男性60.5%、女性66.5%)、心血管疾患のグループ(男性23.7%、女性23.5%)、糖尿病のグループ(男性5.6%、女性5.0%)、がんのグループの4つに分類できました。

各グループでの骨折部位と骨折後の死亡率との関連を検討したところ、身体の中心に近い部位(大腿骨近位部、大腿骨、骨盤、脊椎、肋骨、鎖骨、上腕骨、下腿)の骨折は、骨折後1年間の死亡率の上昇と関連することが明らかになりました。超過死亡率が最も高かったのは、がんのグループに属する大腿骨近位部を骨折した男性での40.81%でした(低マルチモビディティグループの男性では19.89%)。これに対して、手や前腕など体の中心部から離れた部位を骨折した低マルチモビディティのグループの人では、実質的な死亡率の増加は認められませんでした。このほか、疾患がない場合には糖尿病によるリスク上昇は認められませんでしたが、心臓、血管、腎臓の疾患を併発する糖尿病の場合には、死亡リスクが上昇することも分かりました。

高齢者にとって命に関わる可能性のある骨折部位とは?
公開日:2022/10/31 Care Net

上記のマルチモビディティとは、同時に2種類以上の健康状態が併存し、診療の中心となる疾患が設定し難い状態を示し、数年前から問題視されてきています。

2型糖尿病,慢性心不全,骨粗鬆症,認知症,うつ病,変形性膝関節症のように「複数の主たる慢性疾患を有する状態」です。そうなるとかかわる診療科も複数になりやすく,その連携がうまくいかないとポリファーマシーになりやすくなると言われています。

残念ながら厳密な骨折の予防は不可能です。しかし特に女性は閉経以降多くの方が骨粗鬆症になっていかれます。閉経を迎えたら定期的に骨密度を測定することは確実に骨折予防につながっていくものと思います。そして定期的な運動や転倒防止のための家庭環境の改善など色々考えられます。

骨折の痛みは激烈ですが、高齢者が骨折して手術のために病院に入院するだけで、一気に認知機能が低下したり不穏・せん妄状態になり全身状態が悪化していきます。そして場合によっては亡くなっていかれます。

可能な限りこの高齢者の骨折は無くしていかなければいけません。

 

最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。