認知症は現在及び将来の日本にとって重要な問題です。
認知症の有病率は人口の高齢化を超えて増加しており、高齢化に加えてほかの要因が認知症の高齢者の数の増加に関与していることを、次の研究は示唆しています。
2022年6月26日 https://doi.org/10.1111/psyg.12865
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/psyg.12865日本における地域密着型の完全な列挙に基づく認知症の有病率の経年的傾向:中山研究
日本において、高齢者の増加以外にも認知症患者の増加する原因があるということです。
認知症の高齢者数の増加を抑えるためには、認知症の発生率、死亡率、予後の経年的傾向や、認知症を促進・予防する要因の解明と予防戦略の策定が急務です。
ここで一つ面白い研究をご紹介します。
J Alzheimers Dis.
インフルエンザワクチン接種後のアルツハイマー病のリスク:傾向スコアマッチングを使用したクレームベースのコホート研究
https://content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad220361
Medical Tribune
インフルワクチンでアルツハイマー病4割減
全米規模の保険請求データ解析米・John P. and Kathrine G. McGovern Medical School at UTHealthのAvram S. Bukhbinder氏らは、全米規模の医療保険請求データベースを用いてインフルエンザワクチン接種歴の有無によるアルツハイマー病(AD)の新規発症リスクを検討。その結果、ワクチン接種により40%のリスク低下が認められたとJ Alzheimers Dis(2022年6月13日オンライン版)に発表しました。
Bukhbinder氏らは今回、全米規模の医療保険請求データベースOptum Clinformatics Data Martの2009年9月~19年8月のデータから、2009年9月1日~15年8月31日の6年間に認知症の診断またはADが適応症となる薬剤の処方を受けておらず、2015年9月1日の追跡開始時に65歳以上だった高齢者を抽出。傾向スコアマッチングを用いてベースラインの患者背景、薬剤の使用状況、併存疾患をマッチングしたインフルエンザワクチンを1回以上接種した群と非接種群を設定し(各群93万5,887例、平均年齢73.7歳、女性56.9%、追跡期間中央値46カ月)、ADの新規発症リスクを比較しました。解析の結果、追跡期間中のAD新規発症率はインフルエンザワクチン非接種群の8.5%(7万9,630例)に対し接種群では5.1%(4万7,889例)でした。
4年の追跡期間におけるインフルエンザワクチン接種によるAD新規発症の絶対リスク減少率は0.034(95%CI 0.033~0.035)、AD新規発症を1例回避するための治療必要数は29.4、相対リスクは0.60(95%CI 0.59~0.61)と算出されました。
以上を踏まえ、Bukhbinder氏らは「全米規模の65歳以上の集団において、インフルエンザワクチン接種は4年間のAD新規発症リスクを40%低減することが示された」と結論しています。
インフルエンザワクチン接種によるADリスク低下の機序については、検討が必要であるとした上で、①インフルエンザに特異的な機序(インフルエンザ感染に続発する傷害の軽減やインフルエンザウイルス蛋白質とADとのエピトープの類似性を含む)、②インフルエンザ非特異的な自然免疫系のトレーニング、③インフルエンザ非特異的なリンパ球を介した交叉反応性による獲得免疫の変化ーの3つに大別できると述べています。
これから日本でもインフルエンザワクチンのシーズンになります。こんな意味からもワクチン接種を検討されてはいかがでしょう。