ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

コロナウイルスとインフルエンザウイルスの同時感染

この冬、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザとの同時流行への備えが叫ばれています。

一方コロナウイルスとインフルエンザウイルスの同時感染はどうなんでしょうか?

筆者は、以前ウイルス干渉のために同時感染は起こりにくいのではないかと思っていました。そもそも、ウイルス干渉(interference)とは、一種類のウイルスに感染すると,他のウイルスには感染しづらくなる現象で古くから知られており,ウイルス干渉の原因究明の結果,他のウイルスの増殖を抑制する物質が発見され IFN と命名されました。現在の Type I IFN です。ウイルス干渉が起きる原因は,最初のウイルス感染による自然免疫の活性化によって産生された TypeI IFN が次に感染したウイルスの増殖を抑制するほかに,最初に感染したウイルスが,感染細胞の増殖・転写系酵素を消費してしまうために,増殖系酵素の奪い合いが生じる可能性も考えられています。

総 説  東女医大誌 91(1): 2-10, 2021.2 
特集 COVID-19 SARS-CoV-2 と免疫応答

しかしそうではないという論文が出ています。

The Lancet Journal
CORRESPONDENCE| VOLUME 399, ISSUE 10334, P1463-1464, APRIL 16, 2022
インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、またはアデノウイルスとのSARS-CoV-2の同時感染
公開日: 2022 年 3 月 25 日DOI: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(22)00383-X

 

2020 年 2 月 6 日から 2021 年 12 月 8 日までの間に英国で入院した SARS-CoV-2 感染症の成人 212,466 人を対象に、インフルエンザ ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、またはアデノ ウイルスによる同時感染の臨床転帰を調べました。
SARS-CoV-2の6965人の患者について、呼吸器ウイルスの同時感染の検査が記録されました。ウイルスの同時感染は 583 人の患者 (8.4%) で検出されました: 227 人の患者はインフルエンザ ウイルス、220 人の患者は呼吸器合胞体ウイルス、136 人の患者はアデノ ウイルスを持っていました。インフルエンザウイルスとの同時感染は、SARS-CoV-2 の単一感染と比較して、侵襲的な人工呼吸を受ける確率の増加と関連していました 。インフルエンザウイルスとアデノウイルスによるSARS-CoV-2の同時感染は、それぞれ死亡率の増加と有意に関連していました。

インフルエンザウイルスの同時感染により、侵襲的人工呼吸器を使用する確率と院内死亡率が大幅に増加しました。

同時感染によって有意に死亡率が増加します。

frontiers
COVID-19 とインフルエンザの同時感染: 系統的レビューとメタ分析
2021 年 6 月 25 日 https://doi.org/10.3389/fmed.2021.681469

合計 3,070 人の COVID-19 患者、および COVID-19 とインフルエンザを併発している 79 人の患者を対象とした 11 の有病率研究が、最終評価のために選択されました。COVID-19が確認された患者のインフルエンザ感染率は0.8%でした。COVID-19患者におけるインフルエンザウイルスの重複感染の頻度は、アジアで4.5%、アメリカで0.4%でした。
4 つの有病率研究では、患者の性別が報告されており、男性 30 人、女性 31 人でした。COVID-19 の男性と女性におけるインフルエンザとの重複感染の有病率は、それぞれ 5.3% と 9.1% でした。
全体として、COVID-19 とインフルエンザの同時感染率は、レビューされた研究で 0.24 ~ 44% の間で報告されています。

COVID-19 患者のインフルエンザ重複感染は、アジアと中国の国から多く報告されています。

同時感染率は0.24~44%とかなり幅がありますが、アジアで重複感染率が高いとのことです。

コロナワクチンのブースター接種とともにインフルエンザワクチンの接種が重要である理由の一つが、この重複感染の重症化にあるようです。