ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

無症候性感染

 

今回は無症候性感染、無症状病原体保有者について考えてみたいと思います。

無症状病原体保有者
① 咽頭にはウイルスは存在したが、その人の免疫により発病に至らない場合
② 感染初期であるために、いまだ症状が出ていない状態
③ 以前に症状があったが、現在は症状が消失し回復途上にある場合
④ 本来は病原体を有していないが、検査の特性上陽性となった場合

無症状病原体保有者の考え方
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000628404.pdf

無症候性感染者に関しては上記のように分けられるかと思います。

ではこの人たちの割合はどうなっているのでしょうか?

 

クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号において、船内の陽性者700名のうち約18%は無症状だったと、Nature誌は報告しています。

また、アメリカの原子力空母セオドア・ルーズベルトで起こったクラスターでは、乗組員4,779人のうち、1271人(平均年齢27歳)が新型コロナに感染しました。
この1271人のPCR検査陽性者のうち、45%は無症状、32%が検査時には無症状でのちに症状を発症、そして23%が検査時に症状があったと伝えています。

NEJM
原著
空母でのCovid-19の発生
2020 年 12 月 17 日 N Engl J Med 2020; 383:2417-2426 DOI: 10.1056/NEJMoa2019375

 

Annals of Internal Medicine
2021年5月のレビュー
無症候性のSARS-CoV-2感染の割合自由
体系的なレビュー https://doi.org/10.7326/M20-6976
SARS-CoV-2 感染の少なくとも 3 分の 1 が無症候性であることを示唆しています。

 

Annals of Internal Medicine
2021年9月の手紙
無症候性のSARS-CoV-2感染の割合 https://doi.org/10.7326/L21-0490
SARS-CoV-2 感染の少なくとも 3 分の 1 は完全に無症候性であると結論付けました。

報告によりまちまちですが、最大80%近くまで無症候性感染があるようです。

それではこれらの無症候性感染者がほかの人に感染させる可能性はどうでしょう?


JAMA Netw Open
2021 年1 月 7 日
COVID-19 の症状がない人からの SARS-CoV-2 感染
2021;4(1):e2035057. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.35057

感染者のうち無症候性感染者が占める割合を3割と仮定した場合、新型コロナ感染者のうち、
①無症候性感染者(一貫して症状がない人)からの感染:24%
②発症する前の感染者からの感染:35%
③発症した後の感染者からの感染:41%
と試算されています。症状がない人からの感染、という意味では①と②を合わせると59%を占めています。

 

サンプルサイズは非常に小さいのですが、感染可能日数に関して感染研がデータを出しています。

SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第3報):新型コロナウイルス無症状病原体保有者におけるウイルス排出期間
令和4年1月27日 国立感染症研究所 国立国際医療研究センター 国際感染症センター

2022年1月14日までに検体搬入された対象症例は、20例(ワクチン接種者:10例;ワクチン未接種者:10例)であった。年齢中央値28歳(四分位範囲9-45歳)(ワクチン接種者:40歳 (29-49歳);ワクチン未接種者:9歳(9-23歳))

本報告では、無症状者のウイルス排出期間を検討した。無症状者においても呼吸器検体中のウイルスRNA量は診断後経時的に減少傾向であった。診断8日目以降もRNAは持続的に検出されたが、ウイルス分離可能な症例は診断6日目以降に減少し、診断8日目以降にウイルス分離可能な症例は認めなかった。

上のデータを根拠として、無症候性感染者の隔離期間を従来と同様の基準にしたようです。

更新日:令和4(2022)年4月1日
新型コロナウイルス感染症感染者の療養終了・退院基準について

千葉県ホームページより

 

しかし、

臨床微生物学と感染症
SARS-CoV-2 omicron バリアントの感染放出期間と症状との関係
公開日: 2022 年 7 月 15 日DOI: https://doi.org/10.1016/j.cmi.2022.07.009

結論
SARS CoV-2 omicron バリアントを持つ合計 55 人の重症でない患者が含まれていました。集団の平均年齢は 34 歳 (範囲 23 から 54) で、78% (43/55 )が女性でした。
5、7、10、14 日目の PCR 陽性率は 96.4% (53/55)、87.3% (48/55)、74.6% (41/55)、41.8% (23/55) でした。ウイルス培養陽性率は、83% (44/53)、52% (26/50)、13.5% (7/52)、および 8% (4/50) でした。無症状になった患者のウイルス培養陽性率は、100% (4/4)、58% (7/12)、11% (3/27)、5% (2/41) でした。

SARS-CoV-2 omicron バリアントに感染した患者のうち、全症例の 13.5% と無症状症例の11 %で少なくとも 10 日間ウイルス排出が続くことを示しました。

上のデータはPCRではなくウイルスの培養上ですから感染性がちゃんとあります。

PCRや抗原検査が義務づけられていない濃厚接触者(無症候性感染者の可能性がある)の隔離期間を短くするなど、オミクロンになって隔離期間を短縮する雰囲気になっています。

しかし無症候性感染や潜伏期を考えると明らかに間違いです。医療機関や高齢者施設の従事者など、保菌者のまま出勤されると大変なことになります。確実に科学的な事実に基づいて決めるべきであり、BA.5は症状の持続期間などオミクロン以前の変異株に近いようですので慎重に対応すべきでしょう。

 

今回無症候性感染をテーマにしたのは、無症候性感染者とその人たちからの感染がかなりの割合になる可能性があるにもかかわらず、相変わらず症状スクリーニングを続けている矛盾をもう一度確認するためです。

drhirochinn.work

 

この記事でも書かせていただきましたが、できるだけ頻回のPCRや抗原検査を使いながら陽性者を検出し、科学に基づいた隔離期間をとり、そのうえで安全に経済を回していくのが正しい道であると強く思います。