おはようございます。
筆者は整形外科医として日々多くの患者さんの診療を担当させていただいていますが、その中でとりわけ多くの骨粗鬆症患者さんを拝見しています。
日常の診療に役立てるために、多くの論文や医学雑誌の記事にできるだけ目を通すよう心がけていますが、今回ビックリするような論文に出会いましたのでご紹介いたします。
Review Lancet
2022 Mar 12;399(10329):1080-1092. doi: 10.1016/S0140-6736(21)02646-5.
高齢者の骨粗鬆症に対する薬物療法
Medical Tribune
高齢者骨粗鬆症の薬物治療Lancet総説:付 花は盛りに月は隈なきをのみ見るものかは
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正
2022年05月31日 17:51
Lancetの論文に高齢者骨粗鬆症の薬物治療(総説)の要点が色々載っていますが、専門的になりますのでこの中から一部ご紹介します。
Medical Tribune内の仲田先生の記事を引用させていただきながらご紹介いたします。
「従来、骨粗鬆症にビタミンDとカルシウムはよく処方されてきましたが、この数年でその効果はほぼ全否定されました。ビタミンD高用量は効果がなく骨量減少を加速し、転倒・骨折を増やします。」
「また従来カルシウム500mg/日以上の摂取が推奨されてきましたが、世界ではこれ以下のところが多いのに骨折リスクは上昇しないのです。65歳以上の女性で骨量とカルシウム摂取の間に相関はありません。 カルシウムのサプリは成人で骨折を予防せず胃腸障害、腎結石、心血管疾患が増えるので食事からの摂取だけにせよとのことです。」
また
REVIEW ARTICLEFREE PREVIEW
Milk and Health
February 13, 2020 N Engl J Med 2020; 382:644-654 DOI: 10.1056/NEJMra1903547
によりますと『「思春期に牛乳摂取すると最終身長が増加するが、高身長は高齢時、大腿骨近位部骨折やその他の骨折と強い相関がある!」というのです。
思春期の牛乳摂取はコップ1杯/日ごとに高齢時の大腿骨近位部骨折がなんと9%増加するのです。というわけでカルシウム摂取は骨塩量、大腿骨近位部骨折を改善しません。
上記N Engl J Med総説によると5つのmeta-analysisで6,740人、計814の椎体骨折でカルシウム摂取群とプラセボの比較で椎体骨折減少になんと差がありませんでした(RR 0.92、95%CI 0.81~1.05)。一方、大腿骨近位部骨折はなんとプラセボより、逆にカルシウム摂取群の方が多かったのです(同1.64、1.02~2.65)。』
思春期の牛乳摂取が高齢時の大腿骨近位部骨折を増やすなどというデータにビックリしました。
もしかしたら今までの我々の常識が非常識であった可能性があります。
「まとめるとビタミンD高用量により骨量減少は加速し、骨折が増加します。またカルシウムに骨折予防効果はなく結石↑、心血管疾患↑となるのでサプリはやめ食事だけでの摂取とせよということです。」Medical Tribuneの記事内で仲田先生は上記のように言っておられます。
今後の研究でさらに明らかになっていくものと思われます。
このLancet(2022 Mar 12 399: 1080-1092)記事中で、ほかに高齢者骨粗鬆症の薬物治療に関して様々な総説が書かれていましたが、大変勉強になります。
ほかのビタミンD サプリメントについての研究を一つご覧ください。
原著
中年および高齢者におけるビタミン D の補給と偶発的な骨折
2022 年 7 月 28 日 N Engl J Med 2022; 387:299-309 DOI: 10.1056/NEJMoa2202106
ビタミンD欠乏症、骨量低下、骨粗鬆症を有していない概して健康な中高年以上の集団では、ビタミンD3を摂取してもプラセボと比較し骨折リスクは有意に低下しないことが、米国・ハーバード・メディカル・スクールのMeryl S. LeBoff氏らが行った「VITAL試験」の補助的研究で示されました。ビタミンDサプリメントは、一般集団において骨の健康のために広く推奨されています。しかし、骨折予防に関するデータは一貫していませんでした。
なお、著者は研究の結果は限定的なものであり、骨粗鬆症または骨軟化症患者、高齢の施設入所者には一般化されない可能性があるとしています。
しかし上記のLancetのデータと合わせて考えると、ビタミンDサプリメントは全く意味がない可能性があります。
日々様々な研究結果が発表されます。まさに日進月歩、昨日の常識は今日の非常識。常に科学的な目で何事も見ていく必要があります。