ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

骨粗鬆症薬と顎骨壊死

f:id:hiro_chinn:20200926072048j:plain

 

一部のかたはご存知かと思いますが、整形外科でよく処方される骨粗鬆症治療薬と歯科治療時の顎骨壊死との因果関係が今まで言われていましたが、実際にはそのようなことはないということがわかってきました。

我々整形外科医は、抜歯などの歯科治療に際して、歯科医師から顎骨壊死予防に、骨粗鬆症治療薬の休止を依頼されることがよくありますが、実はそうではないという研究論文と6学会の統一見解をご紹介します。

 

Sci Rep
癌患者における抜歯と薬物関連顎骨壊死の発症との関係
PMID: 34446755 PMCID : PMC8390686 DOI: 10.1038 / s41598-021-96480-8

概要
抜歯は、薬物関連の顎骨壊死(MRONJ)の主要な危険因子と見なされているため、回避されています。ただし、MRONJは感染源である歯からも発生する可能性があります。この研究は、抜歯が骨修飾剤(BMA)を投与されている癌患者におけるMRONJの発症の危険因子であるかどうかを明らかにすることを目的としています。この遡及的観察研究には、2つの病院からの189人の患者(361人の顎)が含まれていました。MRONJの危険因子は、MRONJを発症した患者と発症しなかった患者の特徴を比較することによって特定されました。さらに、傾向スコアマッチング法を使用して交絡因子を調整した後、BMA療法中の抜歯の効果を分析しました。MRONJは33人の患者の顎で発生しました。BMA投与のより長い期間、歯の数の減少、局所感染の症状の存在、および感染した歯は、MRONJの独立した危険因子でした。ただし、BMA療法中の抜歯はリスクを増加させませんでした。傾向スコアマッチング分析は、抜歯がMRONJ発症のリスクを大幅に低下させることを示しました。感染源となる可能性のある歯はMRONJのリスクを高めるため、BMA投与中でも抜歯する必要があります

 

「ビスホスホネート(BP)製剤や抗RANKLモノクローナル抗体デノスマブなどの骨修飾薬(BMA)を投与されているがん患者を対象に、薬物関連顎骨壊死(MRONJ)発症の危険因子とされる抜歯とMRONJとの関連を検討。その結果、抜歯を避けることが一般的なMRONJの予防治療において、むしろ抜歯を避けると顎骨壊死の発症率を有意に上昇させる。」という研究です。対象はがん患者ですが、一般に言えることだと思います。

 

骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理 :
顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー 2016
顎骨壊死検討委員会
1 日本骨代謝学会
2 日本骨粗鬆症学会
3 日本歯科放射線学会
4 日本歯周病学会
5 日本口腔外科学会
6 日本臨床口腔病理学会
https://www.jsoms.or.jp/medical/wp-content/uploads/2015/08/position_paper2016.pdf

 

<抜粋>
骨吸収抑制薬の投与と歯科治療
侵襲的歯科治療前の BP(骨吸収抑制薬) 休薬
① 骨吸収抑制薬の休薬が ONJ(顎骨壊死) 発生を予防するか否かは不明である。
② 日本骨粗鬆症学会が行った調査結果では、骨粗鬆症患者において BP を予防的に休薬しても ONJ 発生の減少は認められていない。
➂ BP の休薬により骨粗鬆症患者での症状悪化、骨密度低下および骨折の発生が増加する。
④ 発生頻度に基づいた場合に BRONJ (BP製剤による顎骨壊死)発生のリスクよりも骨折予防のベネフィット(有益な効果)がまさっている。
⑤ 米国歯科医師会は、骨粗鬆症患者における ARONJ の発生頻度は最大に見積もっても 0.1%程度であり、骨吸収抑制薬治療による骨折予防のベネフィット(有益な効果)は、ARONJ 発生のリスクを上回っており、また骨吸収抑制薬の休薬は ARONJ(骨吸収抑制薬関連顎骨壊死) 発生リスクを減少させる可能性は少なく、むしろ骨折リスクを高め負の効果をもたらすとの見解を示している。

 

実際に顎骨壊死の患者さんに向き合うのは歯科医師であり、どうしても骨粗鬆症薬に言及したくなるのでしょうが、医学的には骨吸収抑制薬の休薬は必要ない、むしろ骨粗鬆症治療に有害というのが、今のところの統一された見解ということになります。

 

f:id:hiro_chinn:20200926072001p:plain