ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

家族

 

 

人の心の機微に触れるような興味深い研究がありますのでご紹介します。

 

JACCジャーナル
心不全における死別と予後:スウェーデンのコホート研究
2022 年 7 月 6 日。 公開された DOI: 10.1016/j.jchf.2022.05.005


バックグラウンド
心不全 (HF) の予後におけるストレスの役割は不明です。この研究では、重度のストレス源である近親者の死が心不全の死亡率と関連しているかどうかを調査しました。

目的
この研究では、近親者の死亡が心不全の死亡率と関連しているかどうかを評価しました。

メソッド
2000年から2018年の間にスウェーデンの心不全登録簿から、および/または1987年から2018年の間にHFの一次診断を受けたスウェーデンの患者登録簿にある患者(N = 490,527)がこの研究に含まれました。家族 (子供、パートナー、孫、兄弟、および両親) の死亡、死亡率、社会人口学的変数、およびいくつかの人口ベースのレジスターからの健康関連要因に関する情報が得られました。

結論
家族の死亡は、心不全患者の死亡リスクの増加と関連していた。

カロリンスカ研究所(スウェーデン)のKrisztina László氏らによる50万人弱の心不全患者の約30年にわたるデータの解析から、家族を亡くす経験をした心不全患者は、その後約4年間に心不全が原因で死亡するリスクが5~20%高いことが示されました。

平均追跡期間3.7年の間に5万8,949人(12%)が家族を亡くしていました。解析の結果、家族を亡くした経験がある心不全患者では、心不全による死亡リスクが有意に高いことが明らかになりました。ただ、リスクの程度は死亡家族と患者との関係によって異なっていました。例えば、夫あるいは妻、パートナーを亡くした場合、心不全による死亡リスクは20%の上昇が認められましたが、兄弟を亡くした場合には13%、子どもを亡くした場合には10%、孫を亡くした場合には5%のリスク上昇でした。

さらに、家族を1人亡くした場合よりも2人亡くした場合の方が、心不全による死亡リスクが高いことも示されました。同リスクは、1人亡くした後には28%、2人亡くした後には35%の上昇が認められました。

その一方で、親の死に関しては、心不全による死亡リスクの上昇は認められませんでした。この点について、László氏は「今回の解析対象となった心不全患者は年齢がある程度高く、親の死はライフサイクルを考えたときに予測の範囲内であったことが要因かもしれない」との見方を示しています。

この研究を見て興味深く思うのは、子供の死より兄弟の死のほうが影響が大きかったという点と、親の死は影響がなかったという点です。子供が親を思う気持ちは親が子供を思う気持ちほど強くないということなのでしょうか?

 

上の研究のエンドポイントは病死ですが、自殺がそれである研究を一つご紹介します。

PROS ONE
スウェーデンにおける近親者の死と自殺のリスク—登録簿に基づく大規模な症例クロスオーバー研究
公開日: 2016 年 10 月 11 日
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0164274

討論
31,059 人の自殺者に関するこの大規模な自己照合研究では、近親者の死亡後、喪失後 1 年以内に自殺の相対リスクが増加することが示されました。

相対リスクは最初の 1 週間で最も高く、最初の 1 か月と最初の 6 か月で大幅に増加しました。最初の半年後、自殺の過剰相対リスクは見られませんでした。

兄弟や親の死ではなく、パートナーや子供の死は、自殺の相対リスクの有意な増加と関連していました。

この研究における最も強い関連性は、死別の最初の月に45歳以上の指標者の間でパートナーの死とその後の自殺に見られました。

この研究では、兄弟や親の死ではなく、パートナーや子供の死が自殺リスクの増加と関係していたとのことです。

やはり親の死は影響を受けないようです。その方が自分が死んだ後まで心配しなくて済みますね。

亡くなった人と影響を受けた人の年代にも大きく左右される可能性があると思いますが、いずれにしろ家族・近親者の死に対してはお互いの関係性を背景として、影響の受け方が異なってくるのであろうと思います。

 

家族がなくなった後、ほかの家族がそのことが原因で病死したり自殺したりするなんて、非常に悲しいことです。

人間は、”心”によって大きく左右される生き物であるのだと改めて強く感じさせられました。