【コロナ禍における】子どものこころのケア
前稿に引き続き、日本医師会雑誌第150巻第6号の特集記事「新型コロナウイルス感染症とこころのケア」の内容をご紹介していきます。
今回は、子どものメンタルヘルスです。
COVID-19において、感染症そのものによる子どもたちへの健康被害は、それほど大きくないと考えられていますが、感染対策としての社会的隔離、一斉休校、学校内でのマスク着用、アクリル板設置など新たな生活様式と直面したり、部活動の制限や飲食事の厳重な注意事項、各種イベントの中止など子どもにとっても心理的ストレスとなり、基本的な安全・安心が揺らぎやすく、休校に伴う学習の遅れなど進路に影響を与えることから大きな心配となっています。
これら子どもたちにおける生活様式の変化が、メンタルヘルスにどのように影響するのか調べられました。(1)
海外の報告から
ドイツのコロナパンデミック下に行われたCOPSY研究では、
「コロナ・パンデミックに心を悩ませている」と答えた子ども・若者の比率は2020年6月には72%でしたが、第2次調査では85%に増加しました。また、コロナ前には「自分の生活の質が下がっている」と答えた子ども・若者の比率は30%でしたが、第1次調査では60%、今回の調査では70%と大幅に増えています。
「コロナの影響で不安を抱いたり、泣きやすくなったり、夜中に目が覚めたりするなど情緒不安定の傾向が、回答者の30%に見られました。腹痛や頭痛、気分の落ち込み、親に対する反抗的な態度なども見られました。こうした傾向を示す子どもの比率は、コロナ前には20%だった」と指摘しています。
また子どもや若者の45%が、「学校に関する問題が、2020年春のロックダウンの時よりも増えた」と答えた他、多くの回答者が「家族の中で争うことが増え、両親や友人との関係が悪くなった」と語っています。
また、世界の80,879人の若者を含む29の研究の「 COVID-19中の子供と青年におけるうつ病と不安症状の世界的な有病率メタアナリシス」において、臨床的に上昇した子供と青年期のうつ病と不安のプールされた有病率の推定値は、それぞれ25.2%と20.5%でした。COVID-19中のうつ病と不安症状の有病率は、パンデミック前の推定値と比較して2倍になり、モデレーター分析により、パンデミックの後半、年配の青年、および少女で収集した場合の有病率が高いことが明らかになりました。(2)
我が国の調査から
国立成育医療研究センターにて2020年4月~2021年3月まで計5回、延べ3万人超が参加し、全国の小学生から高校生までの子ども本人と0歳から高校生までの子どもを持つ保護者に、オンラインアンケートが実施されました。
結果を箇条書きにします。
① 就寝時刻:小学生高校生以上の3割に乱れがあった。
② スクリーンタイム(勉強以外でテレビ、スマホ、ゲームなどの画面を見ている時間):4割の子供でコロナ前に比べ1時間以上増加した。
③ 食生活:間食の機会や量がコロナ前と比べて増えた子は約25%だった。
④ 「コロナがとても怖い」と回答した小学生は6割弱。
周囲の大人が不安の強い子とかかわる際には、子どもが表現した気持ちを否定せずに共感したり、コロナに関することについて、子どもにもわかる言葉で説明することが重要であるということです。
⑤ ストレス反応とその対処方法
第3回調査(2020年9月1日~10月31日)で直近の1か月で何らかのストレス反応が表れている子どもが73%いました。
第4回調査(2020年11月17日~12月27日)で小学4~6年生の15%、中学生の24%、高校生の30%に中等度以上のうつ症状がありました。
また驚くことに、小学4年生以上の子どもの6%が「ほとんど毎日」自殺や自傷行為について考えたと回答したとのことです。
こどものリスク因子
パンデミック前より特別な支援を要していたり、メンタルヘルスの問題(発達障害、精神疾患、知的障害)を抱えていた子どもは、パンデミックに際してのハイリスク群であり、大人のメンタルヘルス上のリスクがそのまま子どものメンタルヘルス上のリスクにつながることから、生活困窮者や親の失業、親の健康問題などがある家庭環境はハイリスク群であると報告されています。
子どもが考えたストレス対処法
子どもたち自身が考えたストレス対処法とは、「誰かに話す・聞いてもらう」「書き出す」「寝る・布団にくるまる」「抱きしめる・甘える」「考えない」「食べる・料理する」だそうです。(3)
子どもたちのニーズ
子どもたちは、子どもの気持ちや考えをよく聞いてほしいと思っていて、コロナのせいで先生や大人への話しかけや相談が減ってしまったと考えています。コロナ対策に関し、子どものの意見も聞いてほしいと思っています。つまり子どものニーズで多かったのは、listenとrespect だということです。(4)
一方、「コロナで学校が休校になり、改めて学校の楽しさ、友達や先生、先輩の存在の大切さに気付くことができた」(中1女子)「小学校が休校になって、心が休まった」(小5女子)「私は、家族と話す機会が増えて、よかったと思います」(小3女子)「コロナで家にいることが増えて新しいことがたくさんあったのでだいぶ楽しい1年になった」(小3女子)などのコメントもあり、環境の変化は一概にネガティブな出来事ではなく気付きを得られる・安心を得られる出来事でもあったと感じている子どももいたとのことです。(4)
我々大人としては、少しほっとするコメントでした。
パンデミック下における、子どもたちのメンタルヘルスの問題を予防・軽減するには、子どもの安心・安全の確立がまず第一であり、そのためには、親や学校の先生をはじめとする周囲が子どもと安定したかかわりを維持することが重要です。
子どもの心理的ストレスは身体症状や問題行動に現れやすく、成人と比べて自ら心理的問題を訴えることは少ないため、保護者を含め教育関係者など子どもにかかわる大人が身体症状や問題行動の背景にある心理的ストレスに早く気付いてあげることが非常に大切であると強く思います。
参考文献
1)田中恭子:日本医師会雑誌第150巻第6号 【コロナ禍における】子どものこころのケア
2)COVID-19中の子供と青年におけるうつ病と不安症状の世界的な有病率
メタアナリシス JAMA小児科 doi:10.1001 / jamapediatrics.2021.2482 2021年8月 9日 https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2782796
3)第5回【コロナ×こどもアンケート】こどもが考えた「気持ちを楽にする23のくふう」
https://www.ncchd.go.jp/center/activity/covid19_kodomo/report/cxc05_coping20210525.pdf
4)澤田なおみ:月刊保団連 2021、9 No.1353
社会が見過ごした子どものつらさー「コロナ×こどもアンケート」より