ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

自殺報道

 

ウクライナ侵略問題でのロシアの露骨なプロパガンダとしての虚偽の報道を見るにつけ、マスコミや報道の重要性と影響力の大きさを再確認します。

 

自殺報道に関して、以上のような注意喚起がマスコミに対して厚労省より出されました。
これは、以下のWHOの勧告に基つ”いたものです。

自殺対策を推進するために
メディア関係者に知ってもらいたい
基礎知識
2017年 最新版
Preventing suicide: a resource for media professionals, update 2017
World Health Organization (WHO)
訳 自殺総合対策推進センター
https://www.mhlw.go.jp/content/000526937.pdf


やるべきこと
• どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること
• 自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようしながら、人々への啓発を行うこと
• 日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道をすること
• 有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること
• 自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時は、慎重を期すること
• メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること 

やってはいけないこと
• 自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと
• 自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと
• 自殺に用いた手段について明確に表現しないこと
• 自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと
• センセーショナルな見出しを使わないこと
• 写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

 

自殺は大きな公衆衛生学上の問題であり、社会面、感情面、経済面に広く影響を及ぼす。世界では毎年約80万人が自殺し、自殺が起きることで周囲の少なくとも6人が直接的にその影響を受けると考えられている。
自殺および自殺対策に寄与する要因は複雑で十分に解明されてはいないが、メディアもまた自殺対策の取組を強めたり弱めたりする上で大きな役割を持っている、という科学的根拠が増えている。
自殺に関するメディア報道は、模倣自殺を最小限に留めることもあれば、そのリスクを上げてしまうこともある。メディアは有益で教育効果を狙った自殺関連の情報を提供することもあれば、誤った情報を発信することもある。

一方では、自殺リスクの高い人は、メディアの自殺報道の後に模倣自殺を起こしてしまう危険性がある。それは特に報道が大々的で目立つものである、センセーショナルである、自殺手段を明白に述べているといった場合や、自殺に関する広く知られた迷信を容認するまたは繰り返すといった場合に起きやすい。自殺で亡くなった人が社会的地位の高い人、あるいは自らと重ね合わせやすい人であると、リスクがきわめて高くなる。後にさらなる自殺を引き起こすような自殺報道は、より長時間をかけて繰り返されていることが多い。

他方では、責任ある自殺報道をすることにより、大抵の場合、人々への自殺および自殺対策に関する教育に役立たせたり、自殺のリスクがある人に別の行動を促したり、隠すことなく希望をもって対話をする気持ちにさせたりする可能性がある。困難な状況において助けを求める(前向きな対処をする)報道記事は自殺への保護因子を強化し、結果として自殺の発生を防ぐだろう。自殺のメディア報道には、どこに助けを求めるべきかという情報が必ず含まれているべきである。できれば24時間365日利用可能で社会的に認められている自殺対策サービスからの情報が良い。

責任ある報道とは、

1)どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること
自殺報道の最後には、支援のための資源に関する情報を提供すること。具体的な資源には、自殺予防センター、緊急電話相談サービス(いのちの電話)、それ以外の健康福祉の専門家、自助グループなどが含まれていなくてはならない。どこに支援を求めるかという情報には、可能ならばコミュニティーで認められた、良質かつ24時間365日利用可能なサービスが含まれている方が良い。

2) 自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと

3)日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道をすること
一見乗り越えられそうもない困難に直面した時に、どのように支援を受けるべきかを説明する教育効果の高い内容を取り入れた報道記事も推奨される。

4)有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること
自殺リスクの高い人に模倣自殺を誘発させる可能性を特に高めてしまう。有名人の死を美化することで、気付かないうちに社会が自殺関連行動を称賛し、その結果、別の人の自殺関連行動を促進させてしまう可能性を意味している。そういった理由から、有名人の自殺報道の際には特別な配慮がなされなくてはならない。

5)自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時は、慎重を期すること
自殺により遺された人へインタビューをすることは軽々しく決定しない方がいい。こうした人々は悲しみに耐えている間、自殺や自傷のリスクが高くなっている。悲劇的な報道記事を書くことよりも、彼らのプライバシーの尊重が優先されなくてはならない。

6)メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること

7)自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと
自殺に関する報道を目立つ箇所に配置したり必要以上に繰り返したりすることは、さほど目立たない発表と比べると、後の自殺関連行動に繋がる可能性が高い。

8)自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと自殺をセンセーショナルに表すような言葉は避けること。例えば「自殺が流行している」よりは「自殺率が上がっている」と伝える方がより適切である。自殺を報道する際に、自殺対策に関するメッセージと併せて、自殺は公衆衛生上の問題であるというメッセージを伝える言葉、自殺の危険因子を明確化する言葉を使用することで、自殺対策の重要性について人々に啓発を行うことができる。

9)自殺に用いた手段について明確に表現しないこと
自殺リスクのある人が行為を模倣する可能性を高めてしまうため、自殺手段の詳細な説明や議論は避けなくてはならない。例えば、薬の過剰服用を伝える際には、服用した薬のブランド/薬品名、性質、服用量、飲み合わせや、どのように入手したのかを詳細に伝えることは、人々に害を及ぼす可能性がある。

10)自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと
ある場所が「自殺現場」として有名になってしまうのはよくあることである。例えば、自殺が発生した橋、高層ビル、崖、列車の駅、踏切などである。

11)センセーショナルな見出しを使わないこと
「自殺」という語は見出しで使わない、また自殺手段や自殺の現場を明確に示すことも避けるべきである。

12)写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと
自殺の現場の写真、ビデオ映像、ソーシャル・メディアへのリンクなどは使用すべきではない。特に場所や手段の具体的な説明をする時に用いてはならない。
亡くなった人や自殺行動を美化しないこと。自殺行動に関連する写真は、後になって自殺リスクのある読者が、個人的な危機状況にある時などに良くない影響を及ぼす可能性があり、自殺関連行動を引き起こすきっかけになり得ることが研究により示されている。

 

確かにある頃より自殺報道の後に支援のための情報も併せて伝えられるようになりました。

娘を自殺で失ったタレント夫婦が直接リポーターに「いまのお気持ちを聞かせてください。」といわれている映像が流れたことが、確かありました。この時仲間のマスコミ関係者がこのリポーターに味方するような意見を言っていたのを覚えています。

 

マスコミ関係者は、より厳格な報道規範を持っているべきであると、改めて強く感じた出来事でした。