ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

微量ミネラル欠乏症

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今回は、微量ミネラル欠乏症について考えてみたいと思います。これは、2021年6月号の日本医師会雑誌の特集記事より抜粋したものです。

我々臨床医にとって微量ミネラルという言葉自体あまり馴染みがなく、鉄欠乏性貧血やヨード欠乏による甲状腺腫くらいの疾患しか思い浮かびません。筆者も皆さんと一緒に勉強していきたいと思います。

 

微量ミネラル欠乏症とは?

 

ヒトの体はすべて元素で構成され、地球に存在するほとんどすべての元素がヒトの体内に見出されます。

それらは大きく分けて多量元素と微量元素(微量ミネラル)に分けられます。

微量ミネラルは、ヒトの体の全重量のうちわずか0.02%を占めるにすぎませんが、生体内では酵素や生理活性物質の活性中心として働き、それらの機能の発現や維持に深く関与しています。

微量ミネラルのうち、ヒトの生命維持に必要不可欠でかつ鉄より体内含有量が少ないものが必須微量ミネラルと定義されています。実際には、鉄、亜鉛、銅、セレン、マンガン、ヨウ素、クロム、コバルト、モリブデンです。

微量ミネラルの摂取量が不足すると欠乏症を発症し、その原因や症状などはそれぞれの微量ミネラルによって異なります。

 

微量ミネラルの歴史

 

最初に欠乏症とわかったのは、鉄欠乏性貧血でこれは紀元前300年ころのヒポクラテス全集に記載され、古くから知られています。

当時は鉄の剣を浸したワインを強壮剤として貧血患者の治療に使用していたとのことです。

その次にわかったのは、ヨウ素欠乏症による甲状腺腫です。甲状腺腫自体は紀元前から認識されていましたが、1811年にヨウ素が元素として発見されヨードチンキなどの医薬品として使われるようになり、甲状腺腫にも効くことが明らかになってきました。

セレン欠乏に関与する克山病(keshan disease)について原因が分かったのは、1980年になってからで、フィンランドの研究で血清セレン値が低いと心筋梗塞やがんになりやすいことが明らかにされました。

 

微量ミネラル欠乏症が起こる原因

 

箇条書きにします。

1)高齢化が進んできて高齢者のフレイルや栄養不良が問題となっていますが、高齢者の栄養摂取量の減少が原因の一つ。

2)肝疾患や慢性腎臓病・糖尿病などの慢性疾患を持っている人は、薬を長期間服用しており、特に金属を結合させる働きを持つキレート作用のある薬を飲み続けていると、体内の亜鉛や鉄を吸着して尿中に排泄させ、欠乏症になりやすくなります。

以下にキレート作用のある薬品を挙げます。

 

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驚くべきことに、これらの薬は様々な慢性疾患に日常的に処方されており、亜鉛欠乏から味覚障害を起こしたり、鉄欠乏性貧血を起こしているものと思われます。我々が加齢による貧血と思っているものの中には、キレート作用により発症させているものが相応にあると思われます。まさに医原性の疾患です。

3)加工食品には食品添加物が使用されており、キレート作用のあるものが含まれています。そのため食事の多くを加工食品で摂っていると、微量ミネラル欠乏症になる可能性があります。

4)若い女性のやせ願望などでのダイエットを通して栄養摂取が制限されると、鉄をはじめとする微量ミネラルも欠乏しやすくなります。

5)これまで日本人と韓国人は海藻を食べているのでヨウ素欠乏症になりにくいといわれていましたが、海藻を食べない人が増え最近、欠乏症が増えています。

6)ミネラルは牛などの内臓や牡蠣、エビ、カニ、イカ、タコといった日常的には食べないような食品に多く含まれており、若い人はこれらをあまり食べなくなっています。

7)慢性疾患の食事療法として、糖尿病であればエネルギーを、腎臓病であればたんぱく質を、循環器疾患であれば脂肪や食塩を制限することになりますが、これ自体がアンバランスダイエットになり、特定の食品を極端に制限することになります。これによってビタミンやミネラルの欠乏症を起こしやすくなっています。

欧米では食事療法を行っている人たちに必要に応じてビタミンやミネラルのサプリメントを投与するようガイドラインで示されているとのことです。

 

免疫能の維持・増進に重要な栄養・微量ミネラル

 

1)昨年ドイツのグループから血中のセレンやセレノプロテインレベルとCOVID-19の予後が有意に相関するというデータが発表されました。

Nutrients
セレン欠乏症はCOVID-19による死亡リスクと関連している
PMCID : PMC7400921 DOI: 10.3390 / nu12072098
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32708526/

2)亜鉛酵素というのはたくさんあり、例えばDNAポリメラーゼは細胞増殖に関係しており、感染症にり患した時に免疫細胞をたくさん作るときに重要であり亜鉛が免疫そのものであるといっても過言ではありません。

3)セレン酵素は全部で25種類ありますが、そのほとんどは抗酸化系であり、活性酸素種(reactive oxygen species;ROS)が出てきたときに、それを消去してくれる役割を担っています。COVID-19では重症化するとサイトカインストームが起こり、ROSが大量に発生しますが、その際にセレノプロテインが免疫細胞やヒトの正常細胞を守るために働いていると考えられています。

参考

活性酸素と酸化ストレス
大気中には、約20%の酸素が含まれており、生物はこの酸素を利用し生命活動を維持しています。酸素は、外部からの様々な刺激を受け、反応性の高い活性酸素に変化します。活性酸素は、細胞伝達物質や免疫機能として働く一方で、過剰な産生は細胞を傷害し、がん、心血管疾患ならびに生活習慣病など様々な疾患をもたらす要因となります。そのため生体内には、活性酸素の傷害から生体を防御する抗酸化防御機構が備わっていますが、活性酸素の産生が抗酸化防御機構を上回った状態を酸化ストレスといいます。
活性酸素とは
私たちが生命活動を営む上で酸素の利用は必須となります。呼吸によって体内に取り込まれた酸素の一部は、通常の状態よりも活性化された活性酸素となります。ヒトを含めた哺乳類では、取り込んだ酸素の数%が活性酸素に変化すると考えられています。活性酸素は、体内の代謝過程において様々な成分と反応し、過剰になると細胞傷害をもたらします。

厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-04-003.html

4)免疫機能に関係している栄養素を挙げるとエネルギー以外に20種類あります。(たんぱく質、n3系脂肪酸、食物繊維、ビタミンA,B1,B2,B6,B12,葉酸、パントテン酸、ナイアシン、ビオチン、ビタミンC,D,E,セレン、亜鉛、銅、鉄、乳酸菌)

全部の栄養素をくまなくとれる、バランスの良い食事を勧めるべきであると思います。

 

以前より健康的な食事の基本は、いろいろな食材をまんべんなく摂ることと言われていますが、その理由の一つがこの微量ミネラルのあったわけです。

drhirochinn.work

我々臨床医は様々な薬を患者さんに処方しますが、以前の記事でご紹介したポリファーマシーに際しての抗コリン作用のある薬剤による認知機能の低下や、今回のキレート作用のある薬剤による微量ミネラル欠乏症などのような、医原性の疾患や症状に厳に注意を払う必要があると強く思いました。

 

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