ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

高齢者のアナフィラキシーの管理

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現在日本では、医療従事者のワクチン接種と並行して、高齢者への接種が一部で始まりました。

実際の高齢者への接種後のデータもそのうち発表されると思いますが、実際にワクチンを接種する者として高齢者の接種後の副反応、特にアナフィラキシーについての論文を探してみました。

 

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/all.14838

EAACIポジションペーパー

Management of anaphylaxis due to COVID‐19 vaccines in the elderly

高齢者におけるCOVID-19ワクチンによるアナフィラキシーの管理
ジャン・ブスケ イオアナ・アガッシュ ヒューバート・ブレイン マレク・ジュテル マリアテレサベンチュラ マルギッタワーム ステファノデルジャッコ
初版: 2021年4月2日 https://doi.org/10.1111/all.14838

 

https://www.carenet.com/news/general/carenet/52051?utm_source=m1&utm_medium=email&utm

 

なおこの論文のご紹介に関しては、ケアネットの記事を参考にさせていただきました。

又、この論文はワクチン後に限らずアナフィラキシー全般の研究です。

 

高齢者におけるアナフィラキシー症状

2019年に報告がまとめられた欧州のアナフィラキシーレジストリでは、昆虫毒や鎮痛薬、抗生物質などによりアナフィラキシーを発症した65歳以上1,123人のデータが解析されています。発現したアナフィラキシー症状は若年成人と高齢者で類似していたが頻度は異なり、高齢者では心血管症状がより頻繁に発生していました(若年成人の75%に対して80%)。

drhirochinn.work

 

主な心血管症状は意識喪失(33%)で、めまいと頻脈については若年成人に多くみられました。心停止は、高齢者の3%と若年成人の2%で発生。皮膚症状は最も頻繁にみられ、蕁麻疹と血管性浮腫は通常は他の症状の前に現れます。皮膚症状のない高齢患者のアナフィラキシー反応の重症度は、若年成人と比較して増加しました。消化器症状は、両方のグループで同様の割合で発生していました。

 呼吸器症状、とくに呼吸困難は、高齢者で頻繁にはみられていません(若年成人の70%に対して63%)。ただし、チアノーゼ、失神、めまいは、高齢者のショック発症を高度に予測していました。Ring and Messmer 分類のGrade III(47%)およびGrade IV(4%)を含む重度のアナフィラキシー反応は、65歳以上で多くみられました。

 

〔参考〕 

Ring and Messmer 分類 

Grade
Ⅰ 皮膚粘膜症状のみ、 蕁麻疹・紅斑
Ⅱ低血圧または頻脈、息苦しさ
Ⅲ循環破綻、ショック、頻脈または徐脈
Ⅳ 心停止

 

 高齢患者の30%でアドレナリンが投与され、60%で入院が必要であり、19%が集中治療室(ICU)で治療されました。Grade IIおよびIIIの症例では、若年および中年の成人と比較して、有意に多くの高齢者が入院およびICUケアを必要としていました。

 

高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子 

高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子として、「併存疾患」と「服用薬と多剤併用」を挙げています。

併存疾患として、上述のレジストリでは高齢であることと肥満細胞症の併存が重度のアナフィラキシーのリスク増加の最も重要な予測因子でした。

 虚血性心疾患では、アナフィラキシーの重症化および死亡リスクが高くなります。アテローム性動脈硬化症の病変により、アナフィラキシー中の低酸素症および低血圧に対する耐性が低下することも報告されています。また並存疾患として、心血管疾患、甲状腺疾患、およびがんが若年成人よりも多くみられました。

 服用薬については,アレルゲン曝露と近い時期に投与されたβ遮断薬とACE阻害薬は、重度のアナフィラキシー発症リスクとの関連がみられましたが、アスピリンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬では確認されなかったとのことです。

 

高齢者におけるアナフィラキシーの管理 

EAACI および世界アレルギー機構のガイドラインでは、アナフィラキシーの第一選択療法としてアドレナリンの迅速な筋肉内注射が推奨されており、高齢者においてもアドレナリンが重度のアナフィラキシーに作用することが報告されています。ただし、アドレナリンの多くの心血管系有害事象は血管内経路を介して発生すると考えられ、血管内投与は原則として避ける必要があります。(筋肉内投与が原則です。) 

高齢患者や心血管疾患のある患者においても、アドレナリン投与に絶対的な禁忌はありません。ただし、高齢患者では、アドレナリン注射後に有害心イベントを経験する可能性があり、80歳以上の患者が最もリスクが高いという報告もあります。

以上が論文の要旨です。 繰り返しますが、この論文は、あくまでアナフィラキシー一般の話です。

 

 ワクチンの接種に関して海外と日本のデータを両方見ていると、如何に自国のデータが大切かよくわかります。今回高齢者への接種がある程度進んだ段階で、データをまとめて解析結果を発表していただけると、これから住民のかたがたに接種する側からすると大変助かります。

他国開発のワクチンを他国データのみで緊急使用せずに、自国民の臨床試験後に判断するということは、極めて論理的であると思います。

ですから接種後の自国のデータを、独自に解析することもまた大変重要になってきます。 

 

最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。 

 

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