ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

COVID-19 罹患後症状


新型コロナウイルス感染症において、感染性が消失し主な症状は回復したにもかかわらず “ 後遺症 ” と呼ばれるような症状、あるいは新たな、または再び生じて持続する症状などに悩む患者が少なからずみられるようになりました。

これをWHOでは、Post COVID-19 condition(COVID-19 後の状態)と呼んでいます。

厚労省は、「罹患後症状」として「COVID-19 罹患後,感染性は消失したにもかかわらず,他に明らかな原因がなく,急性期から持続する症状や,あるいは経過の途中から新たに,または再び生じて持続する症状全般をいう。罹患後症状が永続するかは不明である。この罹患後症状が存在する状態(condition)は postCOVID-19 condition や long COVID と呼ばれている。」と定義しています。

厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードは、6月1日に第86回の会議を開催し、その中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の遷延症状に関する研究2題が報告されました。中等症以上の患者を対象とした研究では、退院後12ヵ月後でも13.6%の対象者に何らかの罹患後症状が存在していたとのことです。

2020年9月~2021年9月にCOVID-19で入院した中等症以上の患者で退院後3ヵ月後に受診し、医師の問診(罹患後症状)、アンケート(睡眠、不安・抑鬱、QOL)、肺機能検査、胸部CTを施行。罹患後症状が残る場合はさらに3ヵ月後に受診し、最長12ヵ月間フォロー。
退院後12ヵ月の時点で、何らかの罹患後症状は13.6%、肺機能検査異常は7.1%、胸部CT検査異常は6.3%で残存していたとの結果でした。オミクロン株以前で中等症患者のデータのようです。

もう一つの「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の長期合併症の実態把握と病態生理解明に向けた基盤研究」では、2020年1月~2021年2月にCOVID-19 PCRもしくは抗原検査陽性で入院した18歳以上の患者1200例を対象とし軽症(無症状含む)が247例、中等症Iが412例、中等症IIが226例、重症が100例であり、軽症および中等症Iの患者を多く含んでいました。

12ヵ月後に5%以上残存していた遷延症状は次の通り。疲労感・倦怠感(13%)、呼吸困難(9%)、筋力低下(8%)、集中力低下(8%)、睡眠障害(7%)、記憶障害(7%)、関節痛(6%)、筋肉痛(6%)、咳(5%)、痰(5%)、脱毛(5%)、頭痛(5%)、味覚障害(5%)、嗅覚障害(5%)。

中年者(41~64歳)は他の世代と比較して罹患後症状が多い傾向を認めました。個別の症状として、12ヵ月時点で咳、痰、関節痛、筋肉痛、筋力低下、眼科症状は高齢者に多く、感覚過敏、味覚障害、嗅覚障害、脱毛、頭痛は若年者に多く、罹患後症状の分布に世代間での差異を認めました。
また3ヵ月時点では女性で男性と比べて咳、倦怠感、脱毛、頭痛、集中力低下、睡眠障害、味覚障害、嗅覚障害などさまざまな症状が高頻度で認められた。一方、12ヵ月時点で咳、痰、関節痛、筋肉痛、皮疹、手足のしびれが男性で高頻度となり、全体の頻度としては性差が減少しました。

 

それでは、CDCのデータです。

CDC
18 ~ 64 歳および 65 歳以上の成人 COVID-19 サバイバーのポスト COVID 状態 — 米国、2020 年 3 月 ~ 2021 年 11 月
毎週/ 2022 年 5 月 27 日 / 71(21);713–717
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7121e1.htm?s_cid=mm7121e1_w

本調査は、米国50州の18歳以上のCerner Real-World Dataに登録された電子健康記録(EHR)データを用いて、2020年3月~2021年11月の期間、過去にCOVID-19の診断を受けた、または検査で陽性となった群(症例群:35万3,164例)におけるコロナ罹患後によく見られる26の対象症状の発生率と、コロナ既往歴がない群(対照群:164万776例)における対象症状の発生率について、後ろ向きコホート研究で比較評価しました。

26の対象症状とは、

急性心筋梗塞、不整脈、心血管疾患、心不全、心筋炎および心筋症、急性肺塞栓症、呼吸器症状、喘息、腎不全、慢性腎臓病、血栓塞栓症、脳血管疾患、凝固および出血状態、胃腸および食道状態、神経学的状態、嗅覚および味覚障害、気分障害、その他の精神状態、不安および恐怖に関連する状態、睡眠障害、物質関連障害、倦怠感および疲労、筋肉障害、筋骨格痛、2型糖尿病、および1型糖尿病。

本研究により、コロナ既感染者の成人では、18~64歳の5人に1人、65歳以上の4人に1人が、コロナの既往に起因すると考えられる症状を経験していることが示されました。若年者に比べ高齢者のほうがリスクが高く、感染から1年後まで持続することが報告されている神経学的症状などは、脳卒中や神経認知障害のリスクがすでに高い高齢者に対して、追加支援などが必要になる可能性があるため、とくに懸念されるとしています。

 


The Lancet 
記事| 400 巻、10350 号、P452-461、2022 年 8 月 6 日
オランダにおけるCOVID-19後の身体症状の持続:観察コホート研究
公開日: 2022 年 8 月 6 日DOI: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(22)01214-4

メソッド
オランダの76,422 人の参加者 (平均年齢 53.7 歳 [SD 12.9]、46,329 [60.8%] は女性)において2020 年 3 月 31 日から 2021 年 8 月 2 日までの間の頭痛、めまい、胸の痛み、背中の痛み、吐き気、筋肉の痛み、息苦しさ、寒暖差、手足のしびれ、のどのしこり、全身のだるさ、腕や足の重さ、呼吸時の痛み、鼻水、喉の痛み、乾いた咳、湿った咳、発熱、下痢、胃の痛み、食欲不振または嗅覚障害、くしゃみ、目のかゆみについてアンケート調査されました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の持続する全身症状(いわゆる後遺症)としての呼吸困難、呼吸時の痛み、筋肉痛、嗅覚消失・嗅覚障害などの長期(90~150日)発生率は12.7%と推定されることが、オランダで約7万6,000例を対象に行われた観察コホート試験で示されました。

COVID-19陽性だった被験者において、COVID-19後90~150日時点で認められた持続する全身症状は、胸痛、呼吸困難、呼吸時の痛み、筋肉痛、嗅覚消失・嗅覚障害、四肢のうずき、喉のしこり、暑さ・寒さを交互に感じる、腕・足が重く感じる、疲労感で、これらについてCOVID-19前およびマッチング対照と比較しました。

一般集団のCOVID-19患者のうち12.7%が、COVID-19後にこれらの持続症状を経験すると推定されたということです。

新型コロナウイルス感染症
COVID-19
診療の手引き
罹患後症状のマネジメント
https://www.mhlw.go.jp/content/000952747.pdf

厚労省では、罹患後症状についての手引きを出しており、興味のある方はご覧いただくとよいと思います。

この手引き中にもありますが、「罹患後症状は,特別な医療を要さない軽度の症状から,長期にわたるサポートを必要とする症状までさまざまである.日本国内でも罹患後症状の専門外来を設置する医療機関が増えているが,そのため,かかりつけ医等が慎重な経過観察や対症療法を行い,必要に応じて専門医に紹介することによって対応することは十分可能と考えられる。」

我々初期診療医が十分これを理解して、場合によって専門医に紹介するということが大切であると改めて思いました。

今回のコロナ罹患によって筆者もコロナ感染症の怖さを十分理解できました。

幸い今のところ筆者は、全快といってよい状況ですが、後遺症に苦しんでおられる患者さんが多くおられるということを決して忘れないようにしたいと思います。