ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

喫煙と癌

現在習慣的に喫煙している者の割合は、16.7%であり、男女別にみると男性 27.1%、女性 7.6%です。この10年間でみると、いずれも有意に減少してはいます。 年齢階級別にみますと、30~60歳代男性ではその割合が高く、約3割が習慣的に喫煙しています。

 

 

 

成人喫煙率(厚生労働省国民健康・栄養調査)
https://www.health-net.or.jp/tobacco/statistics/kokumin_kenkou_eiyou_report.html

 

2019年の世界におけるがん負担に寄与した最大のリスク因子は喫煙であり、また、2010年から2019年にかけて最も増大したのは代謝関連のリスク因子(高BMI、空腹時高血糖)であることが、米国・ワシントン大学のChristopher J. L. Murray氏ら世界疾病負荷研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2019 Cancer Risk Factors Collaboratorsの解析で明らかになりました。

The Lancet 
危険因子に起因するがんの世界的な負担、2010 ~ 19 年:2019 年世界疾病負担研究の体系的分析
オープンアクセス公開日: 2022 年 8 月 20 日DOI: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(22)01438-6

2019年の推定されたすべてのリスク因子に起因する世界のがん死亡数は、男女合わせて445万人(95%不確定区間[UI]:401万~494万)で、全がん死亡の44.4%(95%UI:41.3~48.4)を占めました。男女別では、男性288万人(95%UI:260万~318万)、女性158万人(95%UI:136万~184万)であり、それぞれ男性の全がん死亡の50.6%(95%UI:47.8~54.1)、女性の全がん死亡の36.3%(95%UI:32.5~41.3)でした。

2019年のリスク因子に起因するがん死亡とがんDALYに関して、世界全体でこれらに寄与する主なリスク因子は、男女合わせると、喫煙、飲酒、高BMIの順でした。リスク因子によるがん負担は、地域および社会人口統計学的指標(SDI)によって異なり、低SDI地域では2019年のリスク因子によるがんDALYの3大リスクは喫煙、危険な性行為、飲酒の順でしたが、高SDI地域では世界のリスク因子の上位3つと同じでした。

 

著者らは、「世界的に、たばこへの曝露を減らすことは大幅に進歩しており、これは国際的および国内の調整された予防努力につながる可能性があります。禁煙政策、たばこ税の増税、WHO たばこ規制枠組み条約に基づく広告禁止など、たばこの喫煙に対する課税および規制政策による介入は、これらの取り組みにおいて主要な役割を果たしてきました。アルコールの有害な使用を減らすために、課税や広告の禁止など、同様の取り組みが推奨されています。行動上の危険因子は、人々が住んでいる環境に大きく影響され、がん患者を自分の病気のせいにするべきではありません。個人指向の予防を超えて、がんを予防するために曝露を修正する責任を個人に負わせるよりも効果的な長期戦略となる可能性がある、がん危険因子の低減に対する集団健康アプローチの効果を調査するには、今後の研究が必要です。がんの多くの危険因子は何十年にもわたって確立されてきましたが、がん予防に取り組む政策を実施するためのより大きな政治的関与が必要です。」

と考察しています。

がん予防を個人の責任にするべきではなく、政策など社会全体の取り組みとして対策を実行すべきであるという意見には筆者も大賛成です。

恥ずかしい話ですが医療従事者にもまだたくさんの喫煙者がいます。

世界的にがん負担が増加していることを踏まえますと、今回の解析結果は、世界、地域および国レベルでがん負担を減らすなお一層の努力が、社会全体の施策として求められているものと思われます。