ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

コロナ感染と熱中症

 

連日30度を上回る暑い日が続いているうえに、コロナ感染者数も急増しています。ここでいつも心配になるのは、熱中症かコロナ感染か非常にわかりにくいということです。

この度、日本救急医学会が『新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)』を発刊しましたのでご参考になればと思います。

新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第 2 版)
新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症診療に関するワーキンググループ
日本救急医学会・日本臨床救急医学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会
2022 年 7 月
https://www.jaam.jp/info/2022/files/20220715.pdf

 

第2版は初版のクリニカルクエスチョンを継承し、新たに報告された論文結果を踏まえて検討が行われた。第2版におけるQ1~7とその回答は以下のとおりです。

 

Q-1 マスクを着用すると体温が上がるか?
A-1 暑熱環境における 1 時間程度の軽度の運動、あるいは 20 分のランニング程度の運動強度では、マスクの着用が体温に及ぼす影響はない。

 

Q-2 マスクを着用すると熱中症の発症が多くなるか?
A-2 健常成人においてマスクの着用が熱中症の危険因子となる根拠はない。

 

Q-3 COVID-19 の予防で「密閉」空間にしないようにしながら、熱中症を予防するためには、どのようにエアコンを用いるべきか?
A-3 職場や教室等、人の集まる屋内では、密閉空間を避けるため、自然な風の流れが生じるように 2 方向の窓を開ける換気を適宜行い、室温を測定しながら、エアコンの温度設定を調節する。熱中症対策と COVID-19 感染症対策を両立することが望ましい。

 

Q-4 熱中症と COVID-19 は臨床症状から区別できるか?
A-4 熱中症と COVID-19 はいずれも多彩な全身症状を呈するため、臨床症状のみから鑑別は困難である。

Q-5 血液検査は熱中症と COVID-19 の鑑別に有用か?
A-5 両者の鑑別に有用な血液検査の項目はない。

 

Q-6 高体温、意識障害で熱中症を疑う患者の胸部 CT 検査は COVID-19 の鑑別診断に有用か?
A-6 確定診断と除外診断に用いるには、不適切である。

 

Q-7 COVID-19 の可能性がある熱中症患者の場合、蒸散冷却法を用いて、患者を冷却するべきか?
A-7 通常の感染対策を行ったうえで蒸散冷却法を用いた積極的冷却を行ってもよいが、各施設で迅速に使用できる冷却法を選択するのが望ましい。

しかし、症状のところである程度の違いはあります。

筋痙攣は熱中症に特異的です、またCOVID-19 の特徴的な臨床症状は鼻汁、咽頭痛、咳嗽、くしゃみ、嗄声、呼吸困難ですが、熱中症では鼻汁・咽頭痛・咳嗽・くしゃみ・嗄声は通常は出現しません。それに熱中症で嗅覚障害を認めることも殆どありません。

 

又直接、熱中症とCOVID-19を比較した研究もあります。

日本医科大学ジャーナル

オリジナルズ

熱射病とコロナウイルス病を区別するためのバイオマーカーとしての急性腎障害の指標2019:遡及的多施設分析

2021巻88号1ページ80-86
DOI https://doi.org/10.1272/jnms.JNMS.2021_88-107
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnms/88/1/88_JNMS.2021_88-107/_article

結論:急性腎障害は熱関連疾患と関連しており、COVID-19パンデミック時の夏の発熱患者の識別または評価に不可欠である可能性があります。

クレアチニンの異常値が夏の発熱患者で有意に出現していたようです。

わずかに相違点はありますが、厳密な区別は難しいし、熱中症に対する積極的な全身冷却法の選択に関しても難しい点があるようです。

我々としては熱中症、コロナ感染両方の予防をできる限り実行するしかないようです。