ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

子供の近視

 

筆者が日本医師会雑誌の内容を時々お伝えしているのは、医療の基本概念であるE B M (Evidence Based Medicine)に基づいて、広く認められている医学常識や最新情報を皆さんにお伝えしやすいからです。

医師、歯科医師、薬剤師、看護師などの医療者が発する医学情報は、受け取る側の信頼度が一般の方が発するそれとは全く違いますので、その分余計に慎重に、個人の主観や経験をできるだけ排除して情報発信しなければいけません。この意味において医師会雑誌や4大医学雑誌を中心に主要な医学雑誌に掲載されている論文、それもできるだけメタ解析論文などを選んだり、似ているテーマの論文を複数読んだうえで皆さんにお伝えするようにしております。

今回は、日本医師会雑誌2022年3月発行の第150巻第12号「子供の近視・大人の近視」より抜粋して、特に子供の近視に関してお伝えしたいと思います。

 

近視の増加

 

近年、近視は世界的に増加傾向にあり、特に日本を含むアジアの国では小児の近視が急激に増加しています。

Brian Holden教授が2016年に発表した有名な報告によりますと、このままだと今後近視はさらに増加し、2050年には世界人口の約半数が近視になり、約1割が強度近視になるとのことです。

現在日本では文科省のデータによりますと、2020年度は裸眼視力が1.0未満の小学生は前年度比2.95ポイント増の37.52%、中学生は0.82ポイント増の58.29%でともに過去最多となっています。高校生は前年度が過去最多でした。

幼稚園児でも前年度比1.84ポイント増の27.9%になっており、従来より低年齢の近視が増加しています。

これは環境因子の影響、つまりスマートフォンやパソコン、携帯ゲーム機などの普及による近業の増加によるものといわれています。

2019年には小学生の約50%がスマートフォンを利用しているとされ、タブレット端末が目から30~50cm の距離で使用するのに対して、スマートフォンは20cmくらいの距離で見るため、視覚的な負担が非常に大きいといわれています。また、GIGAスクール構想が進み、小児の端末使用時間も増えており、近視化と同様に眼精疲労も進みそれに伴って集中力の低下や不眠など身体的な不調にもつながっていきます。

 

眼球の構造

正常な眼球構造であれば遠方から届く平行光線は黄斑に結像します。

遠見では水晶体はこれを支えるチン小帯にけん引されて前後方向に薄い状態で、チン小帯の根元にある毛様体筋は弛緩しています。

一方、近見の場合は水晶体の厚みを増して入射光の屈折を強め網膜に結像させます。この時、毛様体筋は収縮してチン小帯は緩んでいます。


遠見と近見

学校保健
https://www.gakkohoken.jp/special/archives/181

 

近視とは、網膜より前方に像が結ばれた状態です。

遠方にある物体の像は眼球にはほぼ平行な光線として入射され正常な眼球構造であればこの平行光線は網膜特に黄斑に結像します。これを正視といいます。

正視に対して眼球内に入射した平行光線が網膜に結像できない状態を屈折異常といい、近視・遠視・乱視の3つがあります。

一般に近視と遠視は眼球の長さ(眼軸長)の異常によって起こります。

 

屈折異常

学校保健
https://www.gakkohoken.jp/special/archives/181

 

偽近視

小児では毛様体筋が収縮してチン小帯が緩み、水晶体は自己弾力で厚みを増す調節力が強いのですが、毛様体筋の収縮が過剰であると結像部位が前方に移動し、一見近視のような状態になります。これを偽近視、俗に仮性近視とも呼ばれます。

偽近視は年長ぐらいになれば自然に治りますので、眼鏡による矯正は不要です。

 

屈折の程度による近視の分類

 

人間の眼は、光を屈折させて網膜に完璧に焦点が合うように創られており、遠くから近くへと視点を移動させるときには、眼の屈折力が変化しています。屈折力が変化しているところは、基本的に水晶体です。
この屈折力を数字に置き換えたものが屈折度数であり、D(ディオプター)という単位で表示します。
このDは焦点距離 f (m) の逆数であり、D = n/f (m)で表され、n は屈折率であり、空気中(n = 1)におかれているときは、D = 1/f となります。

例えば、裸眼の状態ではっきり見える距離(明視距離)が20 cmまでの人の場合をこの式に当てはめてみると、D = 1/0.2 (m) となり、屈折度数は5Dと表されます。
近視の場合は頭にマイナス(-)をつけて、遠視の場合はプラス(+)をつけます。
従って近視の場合、見える範囲が眼に近ければ近いほど、屈折度数は強く表されます。
  -3.0Dまでが弱度近視
  -6.0Dまでが中等度近視
  -10.0Dまでが強度近視
  -15.0Dまでが最強度近視

 

小児の眼鏡作成のタイミング

 

小児の視力が低下したら眼鏡を作成することになります。視力が悪いままにしておくと脳の発育を妨げるとも言われており、早い段階で眼鏡などできちんと矯正すべきです。

問題となるのは、小児では調節力が強く、遠方を見るように指示しても目が緊張状態となり、実際の屈折値より近視側に測定され、そのまま眼鏡を作成すると過矯正になる可能性があります。

これを防ぐためには、調節麻痺薬を用いて調節できない状態を作り出し検査する必要があります。

 

小児の近視に対する治療

 

近年、近視の進行を抑制する様々な治療法が提案されてきています。

1)0.01%の低濃度アトロピンの点眼

2)オルトケラトロジーというコンタクトレンズを寝る前に装用して寝ている間に角膜の形状を変化させる治療

3)①DIMS(defocus incorporated multiple seguments)レンズ

特殊なレンズで、ものを見る時に常に網膜の前方にピントを合わせるように眼球を制御し、眼軸長の伸びを抑える。

②ニコン・エシロール社のステレストレンズ

③クーパービジョン社のMiSight1dayコンタクトレンズ

以上の特殊レンズは日本の臨床試験を経て導入されるであろうとのことです。

4)RLT(red light therapy)

など

 

近視予防

 

物が見えにくい、つまり網膜に像が結び付きにくい状態に対して、眼軸長が伸びて順応するメカニズムがあると推察されており、この眼軸長伸長は主に学童期に進行し、スマートフォンやパソコン、タブレット端末の使用などの近見作業の増加が関与しており、逆に戸外で遊ぶことによって近視進行が抑えられることがわかっています。

「30-30-30ルール」というのがあります。

これはパソコンやタブレット端末の画面から30cm 以上離れて見る。30分画面を見たら20~30秒目を休めるというものです。

それにプラスして1日2時間位屋外活動をすることにより、近視をある程度予防できるということです。

 

今日は子供の近視について、日本医師会雑誌よりかなり抜粋してお伝えしました。

子供は将来の日本にとって’宝’です。筆者も子供の頃より近視ですからよくわかりますが、近視というのは日常生活やスポーツ或いは仕事(筆者はとくに手術時)上かなりのハンディーになります。自分の孫や日本の子供たちに同じ思いをさせたくはありません。

幼児期・学童期の検診で視力低下を指摘されたら、直ちにお近くの眼科を受診してください。そして眼科の先生に診断・治療の相談をすることが何よりも大切であると強く思います。