ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

騒音の非聴覚的健康への影響

 

筆者も苦手なことの一つに「騒音」があります。実体験として騒音があると眠れないしイライラします。その結果恐らく血圧も上がるでしょうしイライラしてじっくり思考もできません。

この騒音と人間のかかわりに関して少し調べてみました。

The Lancet Journal
REVIEW| VOLUME 383, ISSUE 9925, P1325-1332, APRIL 12, 2014
健康に対する騒音の聴覚的および非聴覚的影響
公開日:2013年10月30日DOI:https ://doi.org/10.1016/S0140-6736(13)61613-X
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(13)61613-X/fulltext

聴覚的健康への影響
1)騒音性難聴
参考

Medical Note
https://medicalnote.jp/diseases/%E9%A8%92%E9%9F%B3%E6%80%A7%E9%9B%A3%E8%81%B4

騒音性難聴とは、慢性的に激しい騒音にさらされることで徐々に聴力低下する病気です。
原因
外部からの音は空気の振動として外耳道を通り、鼓膜を揺らすことで中耳に存在するツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨に伝播します。次に、骨の振動は内耳のなかでも蝸牛かぎゅうと呼ばれる部位の内部にあるリンパ液へと伝わります。このタイミングで空気の振動である音の情報は、液体の振動へと変化します。

蝸牛の中には有毛細胞と呼ばれる神経細胞があります。髪の毛のような突起物を有する細胞で、蝸牛中の液体が振動すると毛にあたる部分が曲がったり揺れたりします。物理的な変化が細胞に生じると、液体の振動情報が電気信号へと変換され、脳へと情報伝達されます。そして、最終的に音として認識されます。

騒音性難聴は長時間にわたって大きすぎる騒音に曝され続け、有毛細胞が障害されることで発症します。障害を受けた有毛細胞は二度と再生しません。したがって騒音性難聴での難聴は不可逆的なものとなります。85db(デシベル)以上の騒音に8時間さらされ続ける状態が5~15年ほどあると、発症リスクが高まるといわれています。

The Lancet Journal
REVIEW| VOLUME 383, ISSUE 9925, P1325-1332, APRIL 12, 2014
健康に対する騒音の聴覚的および非聴覚的影響
公開日:2013年10月30日DOI:https ://doi.org/10.1016/S0140-6736(13)61613-X
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(13)61613-X/fulltext


非聴覚的健康への影響
1)迷惑
不快感は、環境騒音にさらされている人々の中で最も一般的なコミュニティの反応です。騒音による不快感は、日常の活動、感情、思考、睡眠、または休息を妨げる騒音から生じる可能性があり、怒り、不快感、倦怠感、およびストレス関連の症状などの否定的な反応を伴う場合があります。重症の場合、健康や健康に影響を与えると考えられ、影響を受ける人の数が多いため、不快感は環境騒音による病気の負担に大きく影響します。
2)循環器疾患
人間の短期実験室研究と動物の長期研究の両方が、環境ノイズへの長期曝露が心血管系に影響を及ぼし、明白な疾患(高血圧、虚血性心疾患、および脳卒中)を引き起こします
研究者らは、騒音曝露が収縮期および拡張期血圧を上昇させ、心拍数を変化させ、ストレスホルモン(カテコールアミンおよびグルココルチコイドを含む)の放出を引き起こすことに繰り返し注目しています。
慢性的な曝露は、代謝と心血管系に影響を与える生物の恒常性(アロスタティック負荷)の不均衡を引き起こす可能性があり、血圧、血中脂質濃度、血中粘度、血中グルコース濃度などの確立された心血管疾患のリスク要因が増加します。
3)認知能力
子供の認知に対する騒音の影響について想定されるメカニズムには、コミュニケーションの困難、注意力の低下、覚醒の増加、学習性無力感、欲求不満、騒音の不快感、および睡眠障害がパフォーマンスに及ぼす影響が含まれます。
環境騒音のレベルが高い地域はしばしば社会的に剥奪されており、社会的剥奪が高い地域の子供は、社会的剥奪にさらされていない子供よりも認知テストで悪化します。したがって、騒音曝露と健康および認知との関連を評価する際には、社会経済的立場の測定を考慮に入れる必要があります。
20以上の研究は、環境騒音曝露が子供の学習成果と認知能力に悪影響を与えることを示しており、学校で慢性的な航空機、道路交通、または鉄道騒音曝露のある子供は、全国標準化された読書能力、記憶、およびパフォーマンスが劣っています。
航空機の騒音曝露の5dBの増加は、英国の子供たちの読書年齢の2か月の遅れ、およびオランダの子供たちの1か月の遅れと関連していました。
4)睡眠障害
睡眠障害は、環境騒音曝露の最も有害な非聴覚的影響であると考えられています。
人間は、眠っている間でも、環境音を知覚し、評価し、反応します。 33 dBという低い最大音圧レベルは、自律神経、運動、および皮質の覚醒(頻脈、体の動き、覚醒など)を含む睡眠中の生理学的反応を誘発する可能性があります。
夜間の騒音曝露は、日中の騒音曝露よりも心血管疾患などの長期的な健康転帰の創出に関連している可能性があることを示しています。

結論
職業的または娯楽的な騒音曝露によって引き起こされる難聴は非常に蔓延しており、予防および治療戦略を必要とする公衆衛生上の脅威を構成しています。
このレビューでは、環境騒音の非聴覚的健康への影響は多様で深刻であり、広範囲にわたる曝露のために非常に蔓延していることを強調します。これらの要因は、環境騒音への曝露を規制および削減し(理想的には発生源で)、環境騒音への慢性曝露による健康への悪影響を軽減するために曝露制限を実施する必要性を強調しています。

 

このレビュー記事により騒音は聴覚的・非聴覚的健康への影響が多大であることがわかりました。

子供の認知に対する騒音の影響についての言及がありましたが、もう一つ研究をご紹介します。

PLOS MEDICINE
研究論文
スペイン、バルセロナの学童における道路交通騒音への曝露と認知発達:人口ベースのコホート研究
公開日:2022年6月2日 https://doi.org/10.1371/journal.pmed.1004001
https://journals.plos.org/plosmedicine/articleid=10.1371/journal.pmed.1004001#abstract2

Medical Tribune
道路の騒音曝露と児童の認知発達の関連は?
2022年06月22日 05:05

欧州では交通の騒音曝露による健康への悪影響は、大気汚染に次いで深刻であることが報告されています。しかし、それらは成人を対象とした報告が多く、児童への影響についてはあまり分かっていないと指摘するForaster氏ら。
そこで同氏らは、同国バルセロナ市在住の児童を対象に、騒音および大気汚染が認知発達に及ぼす影響を調査したBREATHEプロジェクトのデータを用いて、道路の騒音曝露と学童の認知発達との関連を検討しました。

対象は、2012年1月〜13年3月に7〜10歳だった38校2,680人の学童。

街路の騒音値が5デシベル(dB)上昇するごとに12カ月後の作業記憶は−4.83ポイント(95%CI −7.21〜−2.45ポイント)、複雑作業記憶は−4.01ポイント(同−5.91〜−2.10ポイント)それぞれ低下し、不注意さは2.07ミリ秒(同0.37〜3.77ミリ秒)上昇しました(順にP<0.001、0.001、P=0.017)。
校内(教室)では道路の平均騒音値と不注意さとの有意な関連が確認されました(5dB上昇ごとに2.49ミリ秒上昇、95%CI 0〜4.81ミリ秒、P=0.050)。
以上から、Foraster氏らは「学校では校内外での道路の騒音曝露と学童の認知発達への悪影響に関連が認められた一方、自宅での騒音との関連は示されなかった」と結論。「従来指摘されてきた通り、児童は音などの外的刺激に脆弱であり、そのことが認知発達に悪影響を及ぼしている可能性がある」として、さまざまな背景の集団における長期的な研究の必要性を訴えている。

 

騒音は子供においては、認知能力特に学習能力や記憶・注意力に大きな影響を与えるということでした。そしてそれは経済レベルの低い家庭の子供で影響が大きかったということです。