ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

拡大抑止



おはようございます。COVID-19もここにきて2年半を過ぎ段々とその脅威も減ってきて、やっと克服できるかとの気持ちになってきました。もちろん終息はしていませんが、ワクチン・治療薬も出そろってきて、我々の生活においてもマスクなどコロナに合わせた生活様式に順応できてきています。

しかしこれとは正反対にロシアのウクライナ侵略以降、日本の安全保障環境は、悪化の一途をたどっています。

日米間で緊密に意思疎通 「拡大抑止」で岸田首相
5/26(木) 20:39配信 フジテレビ系(FNN)
https://news.yahoo.co.jp/articles/898c1cdc082f38ca965431c28af04066eb157d3b

衆議院予算委員会で、2022年度の補正予算案の実質的な審議が始まり、先の日米首脳会談で確認された「拡大抑止」の強化などをめぐり、論戦が交わされた。・・・

この報道の中での拡大抑止という言葉を筆者は初めてぐらいに聞きましたので(筆者も平和ボケでした)、一度自分なりに整理しておこうと思います。

この言葉の意味は何でしょう。


拡大抑止【Extended deterrence】
自国だけでなく、同盟国が攻撃を受けた際にも報復する意図を示すことで、同盟国への攻撃を他国に思いとどまらせること。米国は同盟国である日本や韓国に対し、核を含む「拡大抑止」の提供を約束している。「基本抑止(Basic deterrence)」が、自国の国民や領土に対する核抑止であるのに対し、「拡大抑止」は同盟国への核・通常攻撃を抑止する。拡大抑止は一般的に、「核の傘」とも呼ばれるが、厳密には、拡大抑止には「拡大核抑止(Extended nuclear deterrence)」と、通常戦力による「拡大通常抑止(Extended conventional deterrence)」がある。

拡大抑止
Posted on 18年9月3日 by 「安全保障用語」編集部

http://dictionary.channelj.co.jp/2018/18062128/

今年2月24日ロシアがウクライナに侵攻し、27日プーチンが核兵器使用を示唆してから、一気に我々日本人の核使用も含めての、安全保障に関する考え方が変わってきているように思います。

プーチンの核使用恫喝の時、核共有ということが言われました。核を持たないウクライナが保有国のロシアに蹂躙されているのを見ての考えでした。この核共有とは正確にどういう概念でしょうか。

ウクライナ侵攻でにわかに関心が高まる「核共有」: 日本が導入するための前提条件
谷田 邦一  
日本情報多言語発信サイトnippon.com(ニッポンドットコム) https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00809/

核共有とは何か、安全保障上のリスクや課題について、核抑止戦略に詳しい防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏に聞いた。

83%の人が核共有を議論すべきと回答
―産経新聞とFNN(フジネットワーク)が2022年3月19、20日に行った合同世論調査では、米国の核兵器を同盟国内に配備して共同で使う核共有について「議論すべき」と答えた回答者が全体の83.1%を占めました。この数字をどうみますか。

高橋氏:北朝鮮がミサイルの開発を進め、台湾海峡でも危機が叫ばれている中、ウクライナ侵攻でロシア軍の核部隊に戦闘準備を求めたプーチン氏の発言で核使用の現実的リスクに直面し、国民感情が変わってきたのでしょう。

―NATOの核共有とはどんなシステムなのか、解説をお願いします。
高橋氏:核共有の取り決めを結んでいる5カ国(ドイツ、ベルギー、オランダ、イタリア、トルコ)が、各国内の基地に米国の核弾頭を保管し、例えばドイツなら、ドイツの首相と米国の大統領が核使用について決定が一致した場合に限り、ドイツの航空機に核弾頭を積んで攻撃するというシステムです。ただし、核弾頭はあくまでも米国のものであって、ドイツに保有権はありません。また、ドイツ側が核兵器を使いたいと言っても、米大統領が「使うべきではない」と判断したら使えません。逆にドイツが反対しても、米国は自国の航空機やミサイルを使って核攻撃ができるので、ドイツ側には実質上、拒否権がありません。

―ウクライナ戦争をきっかけに、日本でも核共有を巡る議論をすべきという機運が高まる一方、核共有の是非については、米国の核抑止に依存する現行の日米安全保障体制に肯定的な専門家たちの間でさえも意見が割れています。なぜでしょうか。
高橋氏:理由の1つは、今のNATOの核共有の在り方と日米同盟の在り方の2つのオプションを前提にして、どちらを選びますかという議論になっているからではないかと思います。確かに核共有には単独の使用権も拒否権もないのですが、大きな価値があります。核兵器は究極の兵器であり、その共有を内外に示すことは同盟の強化になり、強い抑止力になります。
米国の軍事的支援を信じる究極的な担保は作戦計画の共有です。通常戦力において、日米同盟では、ガイドラインに基づいて共同作戦計画を策定し、日米共同訓練を重ねています。こうした計画の共有と訓練の実施が同盟の実効性と相互の信頼性を高めることになります。核共有協定を結んでいる国の間では、一部の核兵器において計画が共有され、訓練が行われます。この価値やメリットは他では代替できません。だから冷戦後も、核共有は制約がありつつも存続してきたのです。

―核共有を実現するとすれば、一般的にどのような手順や課題があるのでしょうか。
高橋氏:核兵器は軍事作戦の1つとして使われます。陸海空の通常兵力を用いた通常作戦の協力が深まっていく中に、核兵器が組み込まれているのです。
米韓同盟は統一的な指揮系統を持っており、軍事作戦計画の面では日米同盟より深化していて議論しやすい。米韓連合軍には朝鮮戦争時の戦時統制権が存続し、綿密な作戦計画もある。核については作戦計画に統合されていませんが、そこに持ってくることはできる。日米の場合は、まだそういう関係まで構築できていません。ようやく両国の統合司令部の必要性が議論され始めたばかりで、まずはそこから始めなければなりません。

―米国の核抑止を高めて核攻撃の可能性を未然に防ぐために、日本ができることは何でしょうか。
高橋氏:核抑止には2つの考え方があります。核兵器がありさえすれば抑止はできるという考え方と、核兵器を実際に使う準備をしなければ抑止はできないという考え方です。日本の置かれた状況は後者に近づいていると私は考えています。逆説的ですが、核兵器を使う準備をすることが逆に使用する可能性を下げていくということです。

もう1つ大事なことがあります。それは万が一、米国が日本を守るために核兵器を使った場合は、他人事としてとらえないということです。責任をちゃんと共有する覚悟が必要です。責任を米国の大統領だけに負わせるのではなく、日本の首相や国民も負わなければなりません。ともに歴史の法廷に立つ覚悟がなければ、米国に核抑止を期待する資格はありません。拡大抑止の基盤は責任を一緒に負う覚悟にあるのです。

―安倍晋三元首相は「核共有についてタブー視すべきではない」と語っていますが、自民党内では核共有について国会で議論をしようという機運には至っていないようです。
高橋氏:今、北朝鮮は米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発しつつあり、おそらく日本に届く核ミサイルをすでに配備している。中国は2000発持っていて、15年もすれば、ICBMも1000発ぐらいになると言われている。ロシアはいつ暴発するか、分からない状況です。20年前と比べて日本を取り巻く核の脅威が増大しているのに、安全保障体制は同じでよいのか。国民はどうすれば安心できるのか。議論を尽くして、納得するプロセスが不可欠です

 

拡大抑止に関してもうおひとりのご意見をご紹介します。

 

拡大抑止の課題
小川 伸一 https://www.mod.go.jp/asdf/meguro/center/img/028ogawa02.pdf

まず拡大抑止が「核の傘」と新聞等で言われますが、拡大抑止そのものは2つの抑止から成っています。1つは「拡大核抑止(extended nucleardeterrence)」、これは通常言われる「核の傘」です。「核の傘」は、第三国から同盟国に対する武力攻撃を抑止するために、核報復、さらに必要とあらば核の投げ合いにまでエスカレートするという脅しです。そうした威嚇で同盟国に対する第三国の武力攻撃を抑止するわけです。

「核の傘」の信頼性を維持するためには、単に相手の都市に報復核攻撃をするだけでなく、必要とあらば核を投げ合うという能力を準備しておくことが必要です。この能力は損害限定能力、とりわけ相手の核戦力を報復攻撃で叩くカウンターフォース能力を備えることによって得られます。

しかしカウンターフォース能力を無原則的に追求すると、相互抑止が不安定化します。相手の核戦力に対する攻撃能力を高めると、相手は報復能力の維持のために新たな核戦力を配備せざるを得ず、その結果軍拡競争を招きます


拡大抑止のもう1つの要素は「拡大通常抑止(extended conventionaldeterrence)」です。これは通常戦力に基づく抑止で、主として拒否能力、つまりできるだけ相手の戦力を叩くと同時に自分の戦力を防御する能力に基づく抑止です。

より蓋然性の高いシナリオは、短期間に既成事実をつくる軍事行動です。
中国からの武力攻撃があるとすればこうしたケースだと思います。これをどのように抑止するか。このケースの代表例は、尖閣諸島です。中国は尖閣諸島を失った領土の回復と考えている。中国国内は反日的なナショナリズムが強い。こうした背景で、もし軍事行動を起こして尖閣を取れないとなると、国内で政権が非常に困難な状況になる。したがって、尖閣を攻め取ろうとする場合、失敗は許されません。相当なコストを覚悟で一気に尖閣を奪取しようとしてくる。このような軍事行動を抑止するためには、日本の備えも大がかりなものにならざるを得ません。まず尖閣周辺での海空戦力バランスを維持することが必要です。さらに、尖閣が占領されても取り返すことができる戦力を準備しておくこと、これが抑止の成功につながります。短期間に事態が収拾されるのではなく、長期に亘る戦闘を予想させることが抑止の成功につながります。日米共同と言われますが、日本が主役です。何でもアメリカと「一緒にやっていきましょう」だけではだめです。日本が主体的に考え、行動することが重要です

さらにもう一つ

非核三原則の見直しと「核共有」は、東アジアの拡大抑止モデルとなりうるか――核をめぐる安全保障課題と日本の対応
執筆者:村野 将 2022年3月11日 https://www.fsight.jp/articles/-/48700

ウクライナ危機でロシアがとったエスカレーション抑止戦略は、台湾有事や朝鮮半島有事においても当てはまる。現状変更勢力である中国・北朝鮮にとって、有事において米国の介入を阻止することは決定的に重要だ。・・・

この「エスカレーション抑止戦略」とは何でしょうか。

核兵器や極超音速兵器の準備は着々と進められていた…「プーチン大統領が承認している」ロシア軍の“大規模戦争戦略”とは
『現代ロシアの軍事戦略』より #1 小泉 悠2022/04/04 genre : ニュース, 社会, 国際
https://bunshun.jp/articles/-/52996?page=2

「エスカレーション抑止」とか「エスカレーション抑止のためのエスカレーション(E2DE)」と呼ばれる核戦略とは、限定的な核使用によって敵に「加減された損害」を与え、戦闘の継続によるデメリットがメリットを上回ると認識させることによって、戦闘の停止を強要したり、域外国の参戦を思いとどまらせようというものだ(Sokov 2014)。
限定的な核使用とひとくちに言っても、そこには「見せつける」ための核使用から、実際にある程度の損害を与えて相手を思いとどまらせることまでの幅が存在するということである。
米海軍系のシンクタンクである海軍分析センター(CNA)は、膨大な数のロシアの軍事出版物分析に基づき、エスカレーション抑止戦略に関する2本の詳細な分析レポート(Kofman, Fink, and Edmonds 2020/ Kofman and Fink 2020)を2020年に公表しているが、ここではエスカレーション抑止型核使用の諸段階がより詳しく整理されている。
その第1段階はゴリツのいう「デモンストレーション」であり、この中には兵力の動員や演習による威嚇から特定の目標に対する単発の限定攻撃(核または非核攻撃)までが含まれる。
一方、これでも所期の目的(戦闘の停止や未参戦国の戦闘加入)を阻止できない場合に行われるのが第2段階の「適度な損害の惹起」で、紛争のレベルに合わせてもう少し規模や威力の大きな攻撃を敵の重要目標に対して実施し、このままでは全面核戦争に至りかねないというシグナルを発する――というものである。
ロシアの「抑止」概念においては、相手の行動を変容させるために小規模なダメージを与えることが重視される。軍事力行使の閾値下においては、こうした「抑止」が米国大統領選への介入などといった形を取ったが、軍事的事態においては限定核使用による「損害惹起」がこれに相当するということになろう。

ロシアがこの戦術をとる可能性は、劣勢になったらかなりあるといわれています。

核兵器の使用のハードルはかつてないほど低くなっています。

やはり歴史上日本には核兵器のアレルギーがかなりあります。しかし憲法9条があれば侵略されないとか核兵器が日本国内になければ大丈夫などと、寝ぼけたことを言ってる暇はありません。拡大抑止・核共有に関して政府や自民党・防衛省の中だけで議論せず、同時並行的に広く国民を巻き込んだ議論を進めていくべきです。安全保障環境が極度に悪化している今だからこそ、建設的な議論ができる可能性が大いにあると強く思います。