ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

がん検診

国民の2人に1人が“がん”になり、3人に1人が“がん”で亡くなっています。

秋と春は、健康診断の季節です。今回は、がん検診について考えてみたいと思います。

日本のがん検診は,市区町村による対策型検診職域におけるがん検診,および人間ドック等の任意型検診で行われています。このうち市区町村による対策型検診は健康増進法に基づいて行われ,「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」に検診方法,対象年齢および検診間隔が定められ,肺がん,大腸がん,子宮頸がん,乳がん,胃がんの 5 つが行われています。一方,職域におけるがん検診には法的な規定がなく,事業所には実施義務がないにもかかわらず,実際には大企業や役所を中心として福利厚生・健康管理を目的としたがん検診が広く行われています。しかしながら検診方法,対象年齢および検診間隔に縛りがなく,実施状況も把握できない.任意型検診においては実態が全く不明です。

適切ながん検診実施を支援する取り組み
 松田一夫 日医雑誌 第151巻・第 5 号/2022年 8 月

ところでCOVID-19で検診は激減しているのではないかと思っていましたが、そうではありませんでした。

2020年 4 月 7 日に,東京都など一部の都市に対して第 1 回目の緊急事態宣言が令され、4 月 16日以降全国に適用地域が拡大しました。この影響で2020年度の4月5月、がん検診受信者数は減少しましたが、6月以降回復しています。

それでは、がん検診の目標はなんでしょうか?

「世界の先進国ではこれまで,子宮頸がん,乳がん,そして最近では一部の国の大腸がんを含む,がん対策として実施するすべての検診でそれらのがん死亡率減少の成果を挙げている。一方,わが国では最初の検診導入からすでに半世紀以上を経ているが,今なお検診によるがん死亡率減少の成果は認められていない。この違いは,成果を挙げている国々で採用されている国際標準の方法によるがん検診がわが国では実施されてこなかったことに要因がある。現状から脱却して成果を挙げるためには,国際標準の検診の要件を共有し,それを踏まえた検診の実施に転換していく必要がある。この資材はそのために必要な原則や方法を解説する,まさにこれからの日本のがん検診にとっての“guide”と呼べるものと言える。 

がん検診が成果を挙げるための出発点は,がん死亡率減少が可能という科学的根拠が確立した検診のみを行うことであり,これは成果を挙げているすべての国では自明の要件である。しかし,わが国では科学的根拠がない検診が今なお 80%以上の自治体で実施されているのが現状である。」

がん検診に関する世界保健機関(WHO)の教科書的資材(日本語訳)
斎藤 博
日医雑誌 第151巻・第 5 号/2022年 8 月

この教育的資材とは、

スクリーニング(検診 / 健診)プログラム:ガイドブック -効果の改善、利益の最大化および不利益の最小化- です。

https://gankenshin.jp/wp/wp-content/uploads/2022/03/screening_program_guidebook_0309_2.pdf

この斎藤先生は、こうも述べられています。

「筆者自身も 1980 年代初めごろ,当時始まったばかりの大腸がん検診の研究に取り組んでいたが,がん発見率や発見がんの生存率が高い検診であればがん死亡率は下げられるものと考えていた.しかし,海外の臨床疫学の教科書や論文で,それは間違いであること,そしてがん死亡率でしかがん検診の有効性は判断できないという事実を知り,衝撃を受けたものである。」

 

そして、「わが国では最初の検診導入からすでに半世紀以上を経ているが,今なお検診によるがん死亡率減少の成果は認められていない。」

という事実は筆者も知りませんでした。

実際に「世界的に広く行われているがん検診は,子宮頸がん,乳がん,大腸がん検診の 3 つである。WHO cancer mortality database で G7 における年齢調整死亡率の年次推移を見ると,日本以外の 6 か国では 3 がんとも着実に減少している。一方,日本の乳がん死亡率は G7 の中でいちばん低いもののいまだ増加し続けており,子宮頸がん死亡率は増加傾向で,2016 年には G7で最も高い。日本の大腸がん死亡率は1996 年ごろから減少に転じたが,減少率はほかの国々より小さく,2016 年には G7 で最も高い。米国で大腸がん死亡率が減少した最大の理由は,大腸がんスクリーニングであるとされている。残念ながら,日本のがん検診は諸外国ほど効果を発揮していないと言える。」とのことです。

適切ながん検診実施を支援する取り組み
松田一夫
日医雑誌 第151巻・第 5 号/2022年 8 月

この松田先生は、『総務省の調査によれば,がん検診を受けない理由の第 1 位は「受ける時間がないから」,第 4位は「費用がかかり経済的にも負担になるから」である。日本のがん検診は,すべての人が受けやすい体制にはない。加えて日本のがん検診では正確な受診率を把握できず,子宮頸がん,大腸がんにおいて年齢調整死亡率が諸外国よりも高いことを認識すべきである。将来的には,日本のがん検診も英国や北欧諸国にならって,すべての受診対象者を名簿管理した組織型検診(organized screening)へ転換するよう,各方面に働き掛けなければならない。』といわれています。

以下が厚労省の対策型検診の指針です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html
2022年10月15日閲覧

今回は秋の検診季節にあって、がん検診について少し考えてみました。

科学的な根拠に基づいて効率よく検診を実施し、少しでもがん患者を減らしがん死亡率を減らしていく必要があると強く思いました。

 

最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。