ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

オーラルフレイル

f:id:hiro_chinn:20220110080558p:plain

 

口腔機能が低下している高齢者は栄養状態も良くないことが知られていますが、このような関連は非高齢者でも認められることが明らかになりました。
口腔機能の軽度の低下を表す「オーラルフレイル」が近年、フレイル(要介護予備群)の一つとして注目されています。

口腔機能低下のために栄養状態に影響が生じ、両者の相互作用によって心身機能が加速度的に低下してしまうことから、高齢者のオーラルフレイルには早期介入が求められます。ただし、このようなオーラルフレイルのリスクは高齢者だけでなく、中年期から生じている可能性があるとのことです。

オーラルフレイル
公益社団法人 日本歯科医師会
対 応 マニュアル 2019年版

まずオーラルフレイルについて、上記を参考にお話いたします。

 

ヒトのライフステージの中で「食」は原点です。また、フレイル対策の軸はサルコペニア対策と言っても過言ではなく、そう考えると「栄養」が鍵であることも間違いありません。
高齢者の「食力」は様々な要素で下支えされています。残存歯数や咀嚼力、嚥下機能、咬合支持も含めた歯科口腔機能、多病による多剤併用(polypharmacy)は知らないうちに食欲減退に繫がる危険性も高いです。口腔を含む全身のサルコペニアの問題、さらには栄養(栄養摂取バランスの偏り等の食事摂取状態だけではなく、食に対する誤認識も含まれます)などの要素も大きく関与します。

オーラルフレイルは、口に関するささいな衰えを放置したり、適切な対応を行わないままにしたりすることで、口の機能低下、食べる機能の障がい、さらには心身の機能低下まで繫がる負の連鎖が生じてしまうことに対して警鐘を鳴らした概念です。

オーラルフレイルは、負のライフイベントなどにより、生活環境などの変化が生じ口腔保健への意識が低下し、次に日常生活における口のささいなトラブル(滑舌低下、噛めない食品の増加、むせ、など)が生じ、こういった状況を放置してしまうことにより、食欲低下や食品多様性の低下に至ります。さらに、口腔機能低下(咬合力低下、舌運動機能低下など)が生じ、低栄養、サルコペニアのリスクが高まり、最終的に食べる機能の障がいを引き起こすことになります。

 

f:id:hiro_chinn:20220110073142p:plain

https://www.jda.or.jp/dentist/oral_flail/pdf/manual_all.pdf

 

原著
オープンアクセス
口腔機能は、中年の歯科患者の体と筋肉の質量指数に関連しています
Clin Exp Dent Res
初版: 2021年11月17日 https://doi.org/10.1002/cre2.514
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cre2.514

目的
高齢者では、栄養状態が口腔機能に関連していることが知られています。しかし、中年の成人に同様の関連があるかどうかはまだわかっていません。本研究では、中年成人の栄養状態と口腔機能との関連を明らかにしました。

材料と方法
民間の歯科医院で歯科検診を受けた40〜64歳の外来患者117人を対象に実施されました。口腔水分、存在する歯の数、口腔ジアドコキネシス、舌圧、唇のシールの強さ、および咀嚼能力を含む、口腔機能に関連する要因を評価した。ボディマス指数(BMI)、無脂肪質量指数(FFMI)、および骨格筋質量指数(SMI)を栄養状態として分析しました。

結論
地域の歯科医院の中年の外来患者では、唇のシールの強さと舌の圧力は、BMI、FFMI、およびSMIと正の相関がありました。

 

また、日本歯科医師会よりオーラルフレイル対策のための口腔体操が示されています。

https://www.jda.or.jp/oral_flail/gymnastics/

f:id:hiro_chinn:20220110080129p:plain

 

いつまでも楽しく食事をするために、口腔機能を維持しましょう。

 

 

f:id:hiro_chinn:20220110081139p:plain