ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

げっぷ

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おはようございます。またまたワクチン行政の迷走ぶりが露呈しています。

一般高齢者へのワクチン接種、2月待たず前倒し容認 厚労相
12/28(火) 13:27配信  産経新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/7aec6835bde5ed5d9dada81d39c9cad3e57a5965

後藤茂之厚生労働相は28日の記者会見で、来年2月以降に前倒しで予定している一般高齢者への新型コロナウイルスの3回目のワクチン接種について、今月から始まっている医療従事者や高齢者施設入所者への接種が完了する見込みが立った場合は、接種時期をさらに前倒しすることを容認する考えを示した。
「ただしワクチンの供給スケジュールに変更はないので各自治体は留意してほしい」とも語り、注意を促した。

 

drhirochinn.work

前回の記事でもお話したように、ワクチン接種のスピードの問題は、ファイザー社製ワクチンの確保量と自治体側の事務的な速度にあります。

オミクロン株の市中感染の増加を見て慌てた政府が、遅い追加接種の責任を自治体に転嫁しようとしていると読み取れます。しかもワクチンの供給量には変更がないがないということは、暗に「早くしろ」といっているようにしか聞こえません。以前より自治体側からは、ワクチン供給の具体的スケジュールを示すことを要求されていますが、今回も恐らくは知らされずにワクチン接種業務をスタートしているはずですから、今回の厚生大臣のコメントは、全く国民向けの口だけのコメントで実際の接種スピードには、何ら変更はないものと思われます。

この内閣の本質がだんだん見えてきました。政策決定と実行は遅いが国民に向けた口先だけのアナウンスはまめに行うように思えます。

 

気を取り直して今日の研究をご紹介いたします。

非常にユニークな論文です。

J Neurogastroenterol Motil 2021; 27(4):581-587   https://doi.org/10.5056/jnm20225
胸焼け、機能性消化不良、不安/うつ病、および睡眠障害は、臨床的に重要なげっぷと関連しています
藤原康弘ら
大阪市立大学大学院医学系研究科消化器内科。
https://www.jnmjournal.org/journal/view.html?doi=10.5056/jnm20225

 

背景/目的
げっぷは、胃や食道から騒々しく口腔からガスを排出する行為です。これは生理学的現象ですが、げっぷは逆流性食道炎機能性消化不良(FD)などの上部胃腸疾患の症状でもある可能性があります。げっぷの詳細な疫学はまだ報告されていません。この研究の目的は、成人における臨床的に有意なげっぷ(CSB)の有病率と臨床的特徴を調べることです。

メソッド
毎年の健康診断のために病院を訪れた1998年の被験者を分析しました。げっぷは、「げっぷをたくさんしますか?」という簡単な質問で評価されました。そして、0(まったくない)、1(時々)、2(時々)、3(しばしば)、または4(常に)としてスコア付けされます。CSBの被験者は、スコアが3以上であると定義されました。また、アテネ睡眠尺度、ローマIV質問票、および病院不安抑うつ尺度(HADS)に従って、臨床パラメーター、内視鏡所見、およびデータを収集しました。

結果
1998年の被験者のうち、121人(6.1%)がCSBを持っていました。CSBの被験者は逆流性食道炎よりもFDが一般的でしたが、胸焼けの存在は高かった(10.7%対3.1%)。さらに、CSBのある被験者のHADSおよびアテネ睡眠尺度のスコアは、CSBのない被験者のスコアよりも有意に高かった。胸焼けの存在(OR、2.07; 95%CI、1.05-4.09)、FDの存在(OR、2.12; 95%CI、1.33-3.36)、不安/うつ病(OR、2.29; 95%CI 1.51-3.45)、睡眠障害(OR、1.73; 95%CI、1.14-2.61)はCSBと有意に関連していた。

討論
これは、成人のげっぷに関する最初の疫学研究です。頻度が高いと定義されたCSBの有病率は6.1%であることがわかりました。胸焼けの存在、FDの存在、不安/うつ病、および睡眠障害はCSBと有意に関連していましたが、年齢、性別、BMI、胴囲、REの存在、アルコール消費、および喫煙状態は関連していませんでした。特に、FDの存在は、その頻度に関係なくげっぷと有意に関連していた。

臨床的に無視できないげっぷ(clinically significant belching;CSB)の該当者と非該当者で比較すると、年齢、性別、BMI、ウエスト周囲長、喫煙・飲酒習慣に有意差はなかった。その一方、逆流性食道炎の有病率はCSB群8.3%、非CSB群13.6%、FDの有病率は同順に27.3%、10.4%であり、CSB群ではFDが多く、有意差が認められた(P<0.001)。胸やけの症状を訴える患者の割合は、CSB群10.7%、非CSB群3.1%で、CSB群に多かった(P<0.001)。
また、CSB群は不安やうつ、睡眠障害のレベルが高いことが分かりました。具体的には、HADSという21点満点の指標で評価した不安・うつレベルは、非CSB群が6.8±5.5点に対してCSB群は10.1±6.2点と有意に高かった。同様に、アテネ不眠尺度(AIS)という24点満点の指標で評価した睡眠障害のレベルは、非CSB群が3.5±3.1点に対してCSB群は5.2±3.3点と有意に高かった(いずれもP<0.001)。

 

このように誰もやっていない研究というのは非常に価値があります。

筆者もその昔、腹部外科に携わっていた時がありますが、げっぷというのは非常にありふれた腹部症状の一つです。これに対して誰も研究対象にしなかったというのは、ある意味驚きであり、医者の不作為といってもいいかと思います。(笑)

 

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