ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

インフルエンザワクチン

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筆者の勤務するクリニックでも今年のインフルエンザワクチンが入庫し、予約の受け付けが始まりました。

昨年はほとんど流行がなく終わりましたが、今年はどうなのでしょう。昨年は流行がなく人々の免疫が低下しており、今年は危ないというようなことが言われていますが、もっと正確な予測はできるのでしょうか? 少し考察してみました。

 

CDCディレクターのロシェルワレンスキーは、「昨年は、COVID-19パンデミックの際に実施されたマスキングや物理的距離を置くなどの予防策が功を奏し、インフルエンザ患者は非常に少なかった。2020年3月以降、インフルエンザウイルスの活動が控えめになっていることから、CDCのインフルエンザ専門家は、季節性インフルエンザに対する人口レベルの免疫力の低下により、今年のインフルエンザシーズンが深刻化する可能性があることを懸念しています。
米国では毎年、インフルエンザによって12,000~52,000人の命が奪われ、140,000~710,000人が入院すると言われています。
皆さまにおかれましては、予防接種を受けてインフルエンザから最善の防御をしていただきたいと思います。CDCでは、生後6ヶ月以上の方にインフルエンザワクチンの接種を推奨しています。また、COVID-19と同様に、できるだけ多くの方にインフルエンザのワクチンを接種していただくことで、65歳以上の方、喘息や心臓病、糖尿病などの慢性疾患をお持ちの方、インフルエンザによる重篤な合併症のリスクがある5歳以下のお子様など、最もリスクの高い方々を保護することができます。
まだCOVID-19のワクチンを接種していない方は、COVID-19ワクチンの接種と同時にインフルエンザワクチンの接種もご検討ください。両方のワクチンを同時に接種することは安全で効果的です。」と述べています。(1)

 

日本感染症学会は、以下のように提言しています。

2021-2022年シーズンもインフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨

幸いなことに、2020-2021年シーズンは、インフルエンザウイルスの検出報告はほとんどなく、心配されていた同時流行はみられませんでした。これは、COVID-19対策として普及した手指衛生やマスク着用、三密回避、国際的な人の移動の制限等の感染対策がインフルエンザの感染予防についても効果的であったと考えられます。
では、2021-2022年シーズンについてはどうでしょうか。北半球の冬季のインフルエンザ流行の予測をするうえで、南半球の状況は参考になります。オーストラリアからの報告によると、2021年流行シーズンにおいて、インフルエンザ確定患者数は昨年同様きわめて少数です。このことより、2021年冬季は北半球での流行を認めないのではないかとも考えられますが、アジアの亜熱帯地域においては様相が異なります。WHOからの報告によると、例えばバングラデシュでは、2020年後半にA(H3N2)、2021年初夏よりB(ビクトリア)の流行を認めています。また、インドでも、2021年夏季にA(H3N2)の流行を認めています。これらの国々では、インフルエンザワクチン接種が普及しておらず、社会全体のインフルエンザに対する免疫が低かったと思われます。ただし小流行を繰り返すことで、これらの地域でウイルスが保存され、今後国境を越えた人の移動が再開されれば、世界中へウイルスが拡散される懸念があります。前シーズン、インフルエンザに罹患した人は極めて少数であったため、社会全体の集団免疫が形成されていないと考えられます。そのような状況下で、海外からウイルスが持ち込まれれば大きな流行を起こす可能性もあります。英国政府は、今年のインフルエンザは早期に流行が始まり、昨年流行がなかったために例年の1.5倍の大きさの流行になる可能性があるとして、インフルエンザワクチン接種を呼び掛けています。
以上の点を鑑みて、当委員会では、2021-2022年シーズンにおいても、インフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨します。

インフルエンザワクチン接種の時期

ワクチンが使用可となる時期が到来すれば、速やかに接種を行うことが望ましいです。ワクチンの供給に関して、厚生労働省の発表によりますと、2021-2022年度ワクチンの供給量は、製造効率の高かった昨年度に比すると2割程度減少するものの、ほぼ例年通りとのことです。ワクチンを効率的に使用するためにも、昨年同様、13歳以上は原則1回接種となります。

特定の集団へのインフルエンザワクチン接種について

従来から、下記の因子を有する人は、インフルエンザに罹患した場合の合併症のリスクが高いとされています。これらの因子を有する人を含めて、生後6か月以降で禁忌でない方すべて(因子を有する方々に接する医療従事者や介護者を含む)にワクチン接種を推奨します。

 

6か月以上5歳未満
65歳以上(50歳以上とするもの12)もある)
慢性呼吸器疾患(気管支喘息やCOPDなど)
心血管疾患(高血圧単独を除く)
慢性腎・肝・血液・代謝(糖尿病など)疾患
神経筋疾患(運動麻痺、痙攣、嚥下障害を含む)
免疫抑制状態(HIVや薬剤によるものを含む)
妊婦
長期療養施設の入所者
著しい肥満
アスピリンの長期投与を受けている者
担がん患者               (2)

 

対象者は、従来どおりです。

尚COVID-19とインフルエンザワクチンの同時接種に関しては、CDCでは、

COVID-19ワクチンと他のワクチンの同時投与

COVID-19ワクチンと他のワクチンの同時投与の安全性と免疫原性を評価するための研究が進行中または開発中です。一般的なベストプラクティスで詳述されているように、最も広く使用されている生ワクチンと不活化ワクチンの同時投与に関する広範な研究により、セロコンバージョン率と、ワクチンを別々に投与した場合に観察されるものと同様の副作用率が示されています。

COVID-19ワクチン は、他のワクチンのタイミングに関係なく投与できます。これには、COVID-19ワクチンと他のワクチンの同時投与が含まれます。COVID-19ワクチンの反応原性が、アジュバントワクチンなど、より反応原性が高いことが知られている他のワクチンとの同時投与によって増加するかどうかは不明です。COVID-19ワクチンと一緒に(他の)ワクチンを投与するかどうかを決定するとき、ワクチン提供者は、患者が推奨ワクチンに遅れをとっているのか、遅れるリスクがあるのか​​、ワクチンで予防可能な病気のリスクを考慮する必要があります。(3)

 

同時投与の安全性と免疫原性を評価するための研究が進行中または開発中ですが、生ワクチンと不活化ワクチンの同時投与に関する広範な研究により、セロコンバージョン率と、ワクチンを別々に投与した場合に観察されるものと同様の副作用率が示されているとのことでまず問題にはならないであろうとのこと。むしろ両方のワクチンの接種率の向上のためにも同時投与のほうが良いとの意見です。

国内で接種率が増えてきているとはいえ、まだこれから若年層への接種が控えており、COVIDO-19ワクチンの3回目接種とインフルエンザワクチンが時期的に重なる可能性もあり日々の生活・仕事の忙しい中、2回も医療機関に足をはこべるでしょうか?

官僚の頭は常に保守的で自己防衛的です。もっと現実に即して考えてもらいたいものです。

今回も最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。

 

 

参考文献

1)ホワイトハウス:「ホワイトハウスCOVIDによる記者会見-⁠19対応チームと公衆衛生当局」、2021年10月6日。
Press Briefing by White House COVID-⁠19 Response Team and Public Health Officials
OCTOBER 06, 2021 PRESS BRIEFINGS
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/press-briefings/2021/10/06/press-briefing-by-white-house-covid-19-response-team-and-public-health-officials-60/

(2021年10月10日閲覧)

2)日本感染症学会
ガイドライン・提言
2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方
https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=44

(2021年10月10日閲覧)

3)CDC ワクチンと免疫化
COVID-19ワクチンと他のワクチンの同時投与
https://www.cdc.gov/vaccines/covid-19/clinical-considerations/covid-19-vaccines-us.html?CDC_AA_refVal=https%3A%2F%2Fwww.cdc.gov%2Fvaccines%2Fcovid-19%2Finfo-by-product%2Fclinical-considerations.html#Coadministration

(2021年10月10日閲覧)

 

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