ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

ワクチン行政

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国産ワクチン開発の大きな遅れや外国産ワクチンの導入の遅さなど、今回のワクチン行政の不備は、怒りを通り越して行政官僚機構の怠慢に対し呆然とするとともに、この国の深刻な有事対応の遅さを改めて実感させられます。

将来に向けての改善点を発見するためには、過去の検証から始めなければなりません。

当事者はなかなか自らへの非難を恐れ真実を語りません。

その中でビックリした記事を見ました。

 

『 河野太郎行政改革担当相(58)が、7日放送のニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(前6・00~)に出演し、新型コロナウイルスのワクチン対策について語った。

日本でワクチン接種のスタートが遅れた理由については「昨年7月にファイザーが国際的な治験をやると言った時に、欧米と比べて、当時は感染者数が2桁少ないから、日本で治験をやっても時間がかかるだけで意味がないということで外されたんです。その時にファイザーは、アメリカに住んでいる日本人を集めて国際治験の中に入れてくれていた。日本からアメリカに行っている駐在員の方や、留学生の方やら日本人を百何十人集めて国際治験の中でやって、“日本人も取ったデータがあるよ”ということだった」と明かした。
しかし「厚生労働省が“アメリカと日本では食べ物なども違うから、それはダメだ”と言って」と治験データが不十分とみなされたとし「再度、10月に日本で160人の治験をやった。それでスタートが遅れた。』(1)

 

迅速に特例承認し導入していれば何人の日本人の命が助かったことでしょう。何かあったときに自らの非を問われることを心配した官僚が、拒否したものと思われます。

しかしワクチン行政で基本的な問題点は、国産ワクチン開発の遅れです。

 

開発費の問題もありますが、国産ワクチン開発の“壁”は「大規模臨床試験」にあるという意見も多くあります。(2)

『 すでに実用化されているファイザーやモデルナ、それにアストラゼネカなど各社のワクチンは、数万人規模の大規模臨床試験が行われてきました。
こうした臨床試験は、開発中のワクチンを接種するグループと、ワクチンを含まない「偽薬=プラセボ」を接種するグループとに分けて行われ、どちらを接種したかは参加者には知らされません。
ところが、日本ではここ最近、国内で開発された新たなワクチンが実用化されるケースがほとんどなく、数万人という大規模な臨床試験を行うノウハウは十分に蓄積されていませんでした。
ファイザーやモデルナをはじめ、すでに実用化されたワクチンがある中で、試験のために「偽薬」を投与することは、倫理的に許されないという指摘があります。
使えるワクチンがあるのに、試験に参加した人たちのおよそ半数は全く効果が無い「偽薬」を接種している可能性があり、観察期間中に効果のあるワクチンを接種することも難しいからです。』(2)

この偽薬に関しては、「非劣性試験」という対応があります。「非劣性試験」で比較するのは、「開発中のワクチンを接種したグループ」と、「すでに実用化されているワクチンを接種したグループ」となります。
この方法であれば、「偽薬」を接種する必要がありません。

やれない理由はいくらでもあげられます。しかし国のためにどうにかして実行していく責任が政治家や官僚たちにはあるのではないでしょうか。

遅ればせながら5~6種類の国産ワクチンが開発途上にありますが、その中で筆者の目を引いたものがあります。

 

赤畑渉氏らが設立した企業である米VLPセラピューティクスが開発したVLPワクチンです。
『 このVLPワクチンは、見た目はウイルスそのものですが、ウイルスの遺伝子を持たないため、感染はせずに免疫反応だけを引き起こします。このため発症する危険性がなく安全性が高いといわれます。

2013年にVLPセラピューティクスをアメリカに創設した赤畑渉は、新進気鋭のワクチン研究者として知られます。2012年まで勤務していたアメリカ国立衛生研究所(NIH)では、在籍中に開発した独自技術が評価され、革新的な研究を表彰するNIHの最高賞、「ディレクターズアワード」を受賞しました。ちなみに、NIHは6000人以上の科学者が働く、アメリカで最高峰の医学研究の拠点機関です。』 (3)

『 現在、日本を含む世界で広く使用されているファイザー製薬のワクチンには、新型コロナウイルスの特徴であるスパイクタンパク質のトゲトゲの部分の情報が含まれている。ワクチンを接種すると、体内に同じトゲトゲを持つ無害の細胞ができる。免疫細胞がこれを異物と認識することで、本物のコロナウイルスが入ってきた時にも攻撃を仕掛ける仕組みになっている。
これに対して、VLPセラピューティクスのワクチンには、トゲトゲの情報だけでなく、コピー機能を持つたんぱく質も含まれている。これが体内に入ると、最初に細胞内でコピー機が誕生する。次に、コピー機がトゲトゲの情報をコピーして、体内で大量にばらまく。そうすることで無害のトゲトゲを持った細胞がたくさん生まれる。この後の免疫系の働きは、先述の通りだ。すでに動物実験では有効な結果が出ており、変異株にも効果を発揮したという。
画期的なのは、体内で自動的にトゲトゲの情報を拡散するコピー機能があるため、1人あたりのワクチン投与量が1~10マイクログラムで済むことだ。これは現在、世界で接種が進むワクチンの10分の1から100分の1の量で、理論的には、ワクチン127グラムから日本の全国民に行き渡る1億2700万回の投与分を確保できる。また、少量で済むため、生産開始からわずか数カ月で1億回分のワクチンができあがる。』(3)

有効性と安全性はこれからはっきりとわかってくると思います。

こういう民間の有能な研究者の邪魔だけは、政治家や官僚たちにしてほしくないものです。

 

 

参考文献

1)https://news.yahoo.co.jp/articles/a577efffd085c67ea6c5a8785e8959989f093311
河野太郎大臣が明かした 日本でワクチン接種スタートが遅れた理由 
スポニチアネックス

2)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210721/k10013149551000.html
「国産ワクチン」開発はどこまで進んだ? 何が“壁”なのか? 2021年7月21日 16時27分

3)https://signal.diamond.jp/articles/-/804
マラリア、デング熱、コロナ、がん──新型ワクチン開発で世界を救うワクチン研究者・起業家の軌跡 川内イオ:フリーライター

 

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