ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

熱中症

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梅雨もようやく明け、いよいよ本格的に夏到来です。急に気温が高くなると筆者が一番心配になるのは、熱中症(heat illness)です。

総務省消防庁報告データによりますと、全国で6月から9月の期間に、熱中症で救急搬送された方は、暑い夏となった2010年は56,119人、2013年は58,729人で、年齢層別では65歳以上の高齢者が最も多く、2013~ 2017年は全体の46 ~ 50%で推移しています。熱中症患者の発生は、高温の日数が多い年や異常に高い気温の日が出現すると発生が 増 加 すること、ここ 数 年、特に2010年以降、大きく増加していることがわかります。
近年、家庭で発生する高齢者の熱中症が増えており、高齢者では住宅での発生が半数を超えています。

2013年においては、救急搬送者のうち550人が死亡し、その86%は、65歳以上の高齢者でした。
2016年の厚生労働省人口動態統計では、死亡者のうち家庭が38.8%を占めており、家庭で発生する高齢者の熱中症に対する対策の必要性が高まってきています。

 

 熱中症とは、「暑熱環境における身体適応の障害によって引き起こされる状態の総称」です。

具体的には、暑熱暴露或いは身体運動による体熱産生の増加に伴い、高体温と体表への血流移動、発汗などによる体内水分量の低下が重なり、重要臓器の高温虚血によって諸症状が惹起される病態を言います。

 

熱中症には、元気に肉体労働をしている時に起こす労作性熱中症と基礎体力の衰えた高齢者が数日の熱波により、食欲低下、脱水の進行などで起こす非労作性熱中症とに分けられます。

労作性熱中症は、治療に対する反応性もよく予後が良好であることも多いのですが、高齢者に多い非労作性熱中症は、治療に対する反応性も悪く予後不良です。

 

人間は、40℃以上の高熱が続くと、人の細胞の中に有る酵素の一つが働かなくなり、細胞がエネルギーを作れなくなります。 この結果、エネルギー代謝の最も盛んな神経細胞や心筋細胞、血管の細胞に異常が出始めます。特に、脳の血管内皮細胞で敏感に影響が現われ、脳の腫れや脳圧の亢進といった異常を来たし、脳の障害(脳症)を起こします。
この細胞内の酵素については、熱に対する抵抗性が全ての人において同じではなく、熱に対して弱い人では40℃以上の高熱が続くと酵素の働きが急速に失われます。

筆者が駆け出しのころ癌に対しての温熱療法が盛んにおこなわれていました。現在はもっと進歩しているようです。

上記のように人の細胞は42・5度以上に温度が上がると死んでしまいます。その原理を利用して、がん細胞の温度だけを選択的に上昇させてがんを死滅させるのが温熱療法の仕組みです。一般的には放射線治療や抗がん剤治療と併用して行われます.

 

つまり熱中症は、体の高温が非常に危険なのです。このことよりテレビやマスコミなどでは、電解質と水分の補給を強調するようなアナウンスが多くみられますが、より大切なのは、この体の高温を可及的速やかに下げることなのです。

 

熱中症を起こした人への対応はよく F I R E  と表現されます。

水分の補給(FLUID)、冷却(ICING)、安静(REST)、助けを呼ぶ(EMERGENCY CALL)

 

意識障害や嘔吐があったら経口の水分補給などできません。直ちに涼しいところに移動させ可能な限り冷やすことです。それと同時に救急車を呼ぶことが必要になります。

 

次に「日本救急医学会熱中症分類2015」をお示しします。

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この分類では、暑熱環境にいる、あるいはいた後の体調不良は全て熱中症の可能性があると認識し、対応することを求めています。
暑熱曝露が短いほど予後がいいことは明らかであり、熱中症は早期発見・治療が不可欠。現場対応でよいI度と、医療機関の受診を要するII度の見極めは一般市民が行う必要があるため、分かりやすいシンプルな分類となっています。

つまり意識障害が少しでもあれば、医療機関への救急搬送が不可欠です。

 

https://www.jrc.or.jp/study/safety/fever/

Ⅰ度の場合の現場での対応の一例です。

手当
① できるだけ早く風通しのよい日陰や、冷房が効いている室内などに避難させます。
② 原則として水平にしますが、本人が楽な体位にします。
③ 厚い衣服は脱がせて、体から熱の放散を助けます。
④ 意識があり、吐き気や嘔吐などがなければ、水分補給をさせます。経口補水液、スポーツ飲料か、薄い食塩水などを飲ませます。
⑤ 胸や腹の体の表面に水をかけて、うちわや扇風機などで扇ぐことにより体を冷やします。氷嚢などがあれば、それを頚部、腋窩部(わきの下)、鼠径部(大腿の付け根、股関節部)に当てて皮膚の直下を流れている血液を冷やすことも有効です。また、体温の冷却はできるだけ早く行う必要があり、重症者を救命できるかどうかは、いかに早く体温を下げることができるかにかかっています。
⑥ 水分が補給できない、症状に改善が見られない、様子がおかしい、全身の痙攣があるなど、手当の判断に迷う場合は、直ちに119番通報します。
119番通報後も、救急隊の到着前から冷却を開始することが求められます。
⑦ 反応(意識)がなく、普段どおりの呼吸がない場合は、一次救命処置の手順により手当を行います。

 

短めの梅雨が明けていきなり猛暑の今年は、暑さになれていない今が一番危険です。

熱中症になってしまったら対応を間違えないよう今回の記事を書かせていただきました。 

 

今回も最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。

 

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