筆者は、長い医師生活において、最も大切に思ってきたのは、患者さんとの関係性です。色々な失敗を経て、医療で最も大切なものは、患者さんとのコミュニケーションであると、今は確信しています。
これに関して研究した人は、かつてあまりいなかったと思います。
「医の倫理」にも通ずる非常に重要なことがらです。
下記が医療者と患者との関係を研究した数少ない論文です。
Journal of the American College of Surgeons
Critical Role of Trauma and Emergency Surgery Physicians in Patient Satisfaction: An Analysis of Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems, Hospital Version Data from 186,779 Patients and 168 Hospitals in a National Healthcare System
Published:January 29, 2021DOI:https://doi.org/10.1016/j.jamcollsurg.2020.12.017
患者の満足度における外傷および緊急手術の医師の重要な役割:医療提供者およびシステムの消費者評価の分析、全国医療システムにおける186,779人の患者および168の病院からの病院バージョンデータ
『バックグラウンド
外傷と救急手術の患者は、突然の予期しない入院の性質に関して独特であり、これは患者の満足度に悪影響を与える可能性がありますが、私たちの知る限り、この問題を調査する大規模な研究は存在しません。この研究の目的は、外傷患者と救急手術患者の満足度スコアに影響を与える主な要因を調査することでした。
研究デザイン
2018〜2019年に米国の168カ所のHCAヘルスケア病院から退院した患者18万6,779人のデータを分析。
168の病院から186,779人の患者が含まれていました。
患者は、外傷、緊急手術、または直接入院手術(選択的手術)に分類されました。
結果
予想通り、患者の満足度の主な決定要因は、すべてのグループの看護コミュニケーションでした。しかし、外傷および緊急手術の患者は、医師のコミュニケーションが患者の満足度において2番目に重要な要因であり、全体的な評価の変動全体の12.0%(外傷)および8.6%(緊急手術)を占めるという点で、待機手術の患者とは異なりました。医師のコミュニケーションが低い評価を受けた場合、他の指標の高いスコアが全体のスコアを50パーセンタイルより上にすることを補うことができる可能性は低いです。
結論
救急外科医は、医療提供者とシステムの消費者評価、病院バージョンのスコアをサポートする上で独自に重要な役割を果たしているようです。これらのデータは、特に病院前の医師と患者の関係が存在しない場合に、医師とのコミュニケーションの重要性を強調しています。』
患者の満足度に最も大きな影響を与えるのは、看護師とのコミュニケーションであることが明らかになり、その理由は、患者を満足させるベッドサイドケアを提供するのが看護師であり、看護師は患者との接触が極めて多いからであると思われます。
ところが、待機的手術患者と救急外来を介さず手術を伴わない入院患者の間では、医師とのコミュニケーションは、高い満足度を得るための3番目、または4番目の要因でもなかったにもかかわらず、外傷入院患者と緊急手術入院患者では、患者の満足度は、外傷入院患者で12.0%、緊急手術入院患者で8.6%上昇しています。
また、医師とのコミュニケーションレベルが低かった患者では、たとえそれ以外の要因が高い評価を獲得していたとしても、全体の満足度が50パーセンタイルを超えにくいことも明らかになりました。
救急入院、手術という患者さんにとっての非常時に際して、医師の役割、存在意義が極めて大きいということだと思います。
筆者の職場では、外来で初めて会って、その日のうちに手術を受けてもらうケースが少なからずありますが、できるだけ会話をしてから手術室に入ってもらい、局所麻酔後手術中もできるだけ患者さんと会話をしながら手術をするようにしています。(無駄話も多いですが)
患者さんの恐怖心をできるだけ和らげるように色々考えながら、診療しています。そうすることによって麻酔・手術のトラブルもかなり減るように思います。
言うは易しですが、これからも以上のことに十分留意して日常診療を続けていきたいと思います。
最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。