医療崩壊つまりコロナ患者さんだけでなく、通常の疾病の患者さんも受け入れができなくなるという意味ですが、これに関しては、影響は既に出ていました。 緊急で入院或いは手術が必要になるのは何もコロナ患者だけではありません。このまま悪化したらコロナ患者だけでなく、二次的にほかの疾患の死亡者が次々に出てくると思われます。 本格的に医療崩壊となると少なくとも戦後初めての事態で、誰も想像すらできない事態になるでしょう。
報道で聞こえてくる、危機感のない政府やその政府頼みの自治体の首長の対策は、相も変わらず国民への自粛の要請と医療機関、医療者への少しばかりのお金の配分だけです。
医療従事者が医療崩壊に関しての悲痛な叫びをとっくに上げているのにも関わらず、それを否定するかのような発言が、聞こえてくるようになってきました。
「病床が世界で一番多いのに」
「感染者・重症者が他の国と比べたらすごく少ないのに」
等の内容が多いかと思います。
同じ医療者の中からも(恐らく現場にはあまりかかわっていない人であろう)同様の発言が出てくるに至っては、憤りすら感じます。
しかし、実際に現場の医師たちや看護師などから異口同音にひっ迫状況の訴えがありますから、それには何か必然的な理由があるものと考え、自分なりに調べてみました。
今どうしても必要なことは感染者の治療、特に重症者の治療のための「ハコ」「モノ」「ヒト」を、急いで用意することでしょう。
1) まず「ハコ」とは病院や病床です。
日本は、O E C D 37か国の中で一番、一般病床数や急性期病床数が多いようです。
しかし
日本では、I C U 病床が残念ながら非常に少ない。
アメリカとドイツはI C U 病床が突出して多いようです。日本は、医療崩壊したイタリアやアメリカより少ないのです。
西田 修、日本集中治療医学会理事長が日本医師会の有識者会議で述べておられますが、日本の集中治療のレベルは高く、救命率は非常に高いがキャパシティーにほとんど余裕がなく、今後 I C U の拡充や HCU(準 I C U )への医師・看護師の再配置など緊急の対策を訴えておられます。
上の表が5月13日現在の最新のデータですが(さらに上のグラフと値が違いますが集計基準の違いのようです。又現在では以前のICUとHCUを合わせた数字がICUの病床数を表すそうです。)、ICUが5.6床、HCUが8.1床だそうです。HCUを急遽ICUに転用しても13.7床。
「ドイツが30床あっても45床まで増設をすすめていることを考えると、日本で集中治療を行いうるベッドの確保は急務である」と西田先生は言われています。
海外に目を向けてみましょう。
① イタリアの医療崩壊は記憶に新しいところですが、3月19日時点でコロナ死者数3405人は世界最多でした。OECD統計によればイタリアの人口1000人当たりの医師数は4.0人でOECD平均(3.5人)や日本(2.4人)を上回ります。又ICUベッド数でも人口10万人当たり12.5で欧州平均(11.5)を上回っています。日本は13.7(ICU5.6,HCU8.1)。HCUとはICUと一般病床の中間のような存在です。
イタリアは医療資源的には十分整っていたことになります。しかし残念ながら、4月27日までに151人の医師がコロナで亡くなりました。突然のコロナ拡大でどうしようもなかったのだと思います。
② アメリカ、ニューヨーク州で起きたことも悲惨な出来事として私の心に刻まれています。
4月3日時点でニューヨーク州では11万3704人の感染が確認され、入院が必要な患者が1万5905人(内4126人が集中治療室入室)、3565人が亡くなられました。 しかし当時ニューヨーク州の入院病床は5万3000床、集中治療室3000床、人工呼吸器7000台があったそうです。 すでに集中治療室は、完全に不足しています。重症者を救う最後の砦は I C U ということがよくわかります。
上のグラフからもわかるように、10万人当たりのICU病床数はアメリカが世界最多です。それでも足りなかったということです。 この事態が東京や大阪では起きないと誰が言えるでしょうか。
③ ドイツではどうでしょう。
ドイツは4月20日時点で新型コロナ感染者数は約14万5000人と欧州で3番目に多い数字でした。しかし同国の死亡率は3.2%とフランス(12.8%)、イタリア(13.2%)、英国(13.3%)、スペイン(10.3%)などと比べて大幅に低い数字です。
又ドイツでは3月初めの時点で人工呼吸器付きのICUが2万5000床ありました。これは他の欧州諸国を大きく上回っています。どうして各方面から非難されたという「過剰病床」をドイツ政府が維持したかというと、在ドイツジャーナリストの熊谷氏は、ドイツ政府が8年前から今回のパンデミック危機を想定していたといいます。
驚くべき想像力です。加えてドイツでは首相をはじめ、国が強いリーダーシップを持って主導し各州もそれに直ちに反応して迅速な対策が取られたとのことです。
「ほぼ毎日重大な決定が次々と国から発表され、その同日か翌日にはその内容を受けた各州の具体的な決定が下り、同じ日には病院の統括部門から現場へ具体的な通達が来た。」とデュッセルドルフ大学準教授 秋元久樹先生は述べておられます。
2)次に「モノ」
人工呼吸器とECMOの数です。
人工呼吸器とECMO台数は十分にあるようです。問題はこれらを使いこなせる「ヒト」ということでしょうか。
3)最後に「ヒト」です。
医師数は少ないですが、看護師数は、足りているようです。しかしI C U や H C U に所属していないと意味がありません。
医師に関しては OECD の中でも非常に少ない日本ですので、他科例えば重症者があまりいない地域の救急科、麻酔科や日本全国の胸部外科(筆者はその昔、胸部外科医に人口呼吸器の使い方を叩き込まれました。)、その他の外科系の医師(筆者は以前腹部外科をやっていて外科の手術時は麻酔もかけさせられました。)、 呼吸器科(呼吸器内科の専門医は検査上必要な麻酔手技を習得している先生たちも多い)などの人工呼吸器に慣れている医師を動員する方法も必要になるでしょう。
「ハコ」「ヒト」をセットで考えます。
看護配置で言いますと、
I C U は2:1
H C U は4~5:1
つまり患者がそれぞれ 2人、4~5人に対して看護師 1人で対応することになります。 そもそもコロナ重症患者、特に人工呼吸器やE C M O 装着中の患者1人に対して看護師1人で対応できるわけがなく、逆に4~5人看護師が必要であるはずです。 しかも統計上の日本のI C U は、本来の意味でのI C U 5.6と設備や「ヒト」の不備なH C U 8.1の合算です。 13.7といっても実質的にはずっと低い値の意味合いでしかありません。 13.7に内容を持たせるために、早急にトレーニングプログラムを終えた医師と看護師を投入すべきと考えます。
アメリカやイタリアのように集中治療などの医療資源が整っている国々で医療崩壊が起きてしまったことを、我々は自らのこととして重く受け止め、今後の対策を急ぐ必要があると、強く感じました。
まずは東京・大阪などの大都市の人の出入りと外出を一回止めなければいけません。経済に目を向けるのはそのあとです。
お忙しい中、最後までお読みいただきまして、誠にありがとうございました。