自然免疫と獲得免疫 【出典元】
最近、新型コロナウイルスのワクチンの話題が増えるのに伴い「免疫」、「抗体」、「サイトカイン」などの単語が報道にのる機会が増えてきました。膨大な数の研究者と彼らが費やした時間の成果として「免疫系のしくみ」が飛躍的かつ詳細に解明されてきています。
筆者がかつて大学で勉強した内容とは比べ物にならないほど進化・発展してきており、コロナ関連の報道の中の「免疫」の話が少しでも理解しやすいように、私自身の勉強も兼ねて今週の記事を書かせていただきます。
免疫系は機能や分布が異なる様々な白血球や体液成分が協調して働き、「自己」と「非自己」の識別を通じて病原体の排除にあたります。多様な病原体に対処するため、免疫系は相互に連携する、役割の異なる2つの防御系を進化させました。
つまり、常に臨戦態勢にあり、感染直後から働く防御系としての自然免疫系と、これに続いて作動し、病原体の感染に対する個体の適応反応として獲得的に形成される獲得免疫系です。
免疫系の働きは生体内部に出現した変異細胞(がん)にも向かいますし、逆に自己成分に向かった場合、生体にとって不都合なアレルギー反応や自己免疫疾患などが起きます。
1) 自然免疫
PAMPs と PRRs
病原体の多くが共通して持つ分子群は病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns: PAMPs) と呼ばれ、生体に備わるパターン認識受容体 (pattern-recognition receptors: PRRs ) によって認識されます。
PRRs によって誘導される炎症応答を含む一連の免疫応答は自然免疫応答と呼ばれ、感染の最初期に誘導される病原体特異性の低い応答ですが、これに伴って起こる樹状細胞をはじめとした抗原提示細胞によるT細胞や B細胞の活性化は病原体特異的な獲得免疫応答の起点ともなっています。
1990年代初頭に発見されたTOLL様受容体に続き、様々の病原体が持つPAMPsに対応する多様なPRRsが同定されてきました。
DAMPs
一方、外傷性ショックや虚血再灌流傷害などの無菌性炎症の発症に際して核内蛋白質である蛋白HMGB1( high mobility group box 1 )の細胞死に伴う漏出が炎症応答を誘導することが報告されたのを皮切りに、様々な自己成分がPRRsにより認識され、PAMPsと同様に免疫応答を誘導することが明らかになってきました。 これらは、ダメージ関連分子パターン( damage-associated molecular patters: DAMPs ) と呼ばれ、健常状態では、核内や細胞質内に存在していて、PRRs には認識されません。
今回の新型コロナ感染症に際しての SARS-CoV-2 などのウイルスが細胞内で増殖するとそのゲノムに合わせて細胞内 RNA センサーであるRLRs や DNA センサーであるcGAS などの PRRs がその認識を担当します。
一方、自然免疫系による防御にはマクロファージなどの食細胞が重要で、病原体成分を認識して様々な炎症性のサイトカインや化学的メディエイターを産生します。好中球は様々な病原体を貪食して殺菌すると自らも死滅して膿の主な成分となります。
樹状細胞は組織に分布する食細胞で病原体を捕食すると可動性となりリンパ管を介して所属リンパ節へと移動し、抗原を T 細胞に提示して、獲得免疫反応を開始させます。
2) 獲得免疫
獲得免疫反応は、抗原を補足して二次リンパ組織に移動した樹状細胞がナイーブ T 細胞に抗原提示することで始まります。
ナイーブ T 細胞は、抗原刺激を受けて活性化し、ヘルパー T細胞(Th細胞)や制御性 T 細胞(Treg) に分化。サイトカインを通して標的となる細胞の働きを調節して病原体の特性に応じた免疫応答を促進します。一方 B 細胞は抗原刺激を受けて活性化し、抗体を産生する形質細胞(プラズマ細胞)に分化します。 B 細胞は初回の抗原刺激に対する応答(一次応答)では Ig M クラスの抗体を産生しますが、同一抗原による繰り返し刺激に対する応答(二次応答)では Ig M クラス以外の抗体を産生するようになります。(コロナウイルスの抗体検査の時の Ig M,Ig G がこれに相当するかと思います)
一般的な特性として、細菌やウイルスが細胞に感染するときの受容体に、抗体が結合すれば感染は抑制されます。又抗体が結合した細菌・ウイルスに補体が働くとそれらは破壊され、さらにマクロファージ、好中球などが、抗体が結合した細菌・ウイルスを貪食・中和します。
これから接種が始まるワクチンによってコロナウイルスに対する特異的な抗体が我々の体に中にでき、地域社会で集団免疫が達成されれば、新型コロナウイルス感染症は終息するわけです。
今回は、
日本医師会雑誌 第149巻 特別号(2)2020年10月15日発行 「免疫・炎症疾患のすべて」 監修 竹内 勤
を中心に「免疫のしくみ」とりわけ自然免疫と獲得免疫について、要点のみご説明させていただきました。
いつも最後まで、お読みいただきまして、誠にありがとうございました。