ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

ハイブリッド免疫

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2価ワクチンの効果がやや低いという研究を以前記事にしましたが、これに関連してハイブリッド免疫に関して少し書かせていただきます。

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の研究グループによって、
「高齢者ではワクチン接種後のヘルパーT細胞応答の立ち上がりが遅く、収束は逆に早いという特徴があることが分かりました。また高齢者のワクチン特異的ヘルパーT細胞は、T細胞活性化を抑えるタンパク質であるPD-1(Programmed cell death -1)を高レベルで発現していることから、応答にブレーキがかかりやすくなっている可能性が示唆されました。また年齢にかかわらず、ヘルパーT細胞応答の立ち上がりが遅い人では、抗体価の最大値やキラーT細胞の活性化だけでなく、全身性副反応の頻度も低いことが分かりました。
さらに、ワクチンで誘導されるこれらの免疫応答には、年齢差だけでなく極めて大きな個人差があることが明らかになりました。」

明らかに、高齢者の免疫は若い人たちとは違って最初からハンディーがあるようです。

The Lancet Infectious Diseases
記事| オンラインファースト
以前の SARS-CoV-2 感染とオミクロン変異体および重症疾患に対するハイブリッド免疫の保護効果: 系統的レビューとメタ回帰
公開日: 2023 年 1 月 18 日DOI: https://doi.org/10.1016/S1473-3099(22)00801-5

「以前のSARS-CoV-2感染と、オミクロンバリアントによって引き起こされる感染および重篤な疾患に対するハイブリッド免疫の防御効果の大きさと期間を体系的にレビューすることを目的としました。
この系統的レビューとメタ回帰により、以前の感染単独および以前のワクチン接種と組み合わせた以前の感染 (すなわち、ハイブリッド免疫) の両方が、オミクロンバリアントによる SARS-CoV-2 感染に対する保護を急速に弱めているが、入院に対する高度かつ持続的な保護を付与することがわかった。またはオミクロンバリアントによる重篤な疾患。以前の感染は、ワクチン接種のみよりも、再感染に対するより高い保護と、入院または重篤な疾患に対するより持続的な保護を提供することがわかった. ただし、ハイブリッド免疫を持つ個人は、すべての結果に対する保護の規模と耐久性が最も高く、以前に感染した個人にワクチンを提供することの重要性を強調しています。
スパイク抗原のみを標的とするワクチンによって開発された免疫と比較して、ウイルスの複数の抗原部位に対するより多様な免疫応答を引き起こす自然感染によって説明される可能性があります。」

ワクチンだけでなく感染による自然免疫とワクチンによる免疫を組み合わせることによって入院や重症化を高率に予防できるというメタ解析結果です。

個人的な印象ですが、最近の中国の大幅なコロナ行政の転換は、収拾がつかなくなってというのもあるかもしれませんが、むしろ積極的に国民の自然免疫やハイブリッド免疫を意図しての方針転換のように思います。

この観点からして日本の最近のウィズコロナ政策も、高齢者の命は一時的に目をつむって国民全体のハイブリッド免疫獲得に舵を切ったものであるように思えます。

話は変わりますが感染症法上の扱いが2類から5類に代わるという件ですが、筆者もよく見させていただいている医療情報サイトCare Netからです。

『そもそも重症化率や致死率の算出方法が異なるので、インフルエンザと新型コロナの比較が単純化できないことは、過去の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードでも述べられていることです。
「今の検査体制では、コロナは軽症者や無症状者も検査に誘導しているため、分母にごく軽症者が乗っているという問題もある。インフルは発熱し、かつ医療機関にアクセスしてきた患者数が分母となるため、無症状や軽症の人は受診せず、本来はコロナの分母とは乖離するはず。今回数字が寄ったのは偶然だろう。この数字を前提として話すこと自体が問題になるのではないか。」

CareNet.comの会員医師のうち、内科系を中心として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の診療に携わることが想定される診療科の医師1,000人を対象に、アンケートを実施した(2023年1月11日実施)。
「5類となり、COVID-19患者の受診・入院が一般医療機関でも可能となった場合、実際に診療が可能か」質問したところ、「現在診療している」が63.7%、「診療できる」が18.7%、「診療できない」が17.6%であった。』

筆者もコロナが重症化率や致死率でインフル並みになっているというのは、少し違うのではないかと考えます。

実際のところ、例えばコロナ患者と一般の高齢者の動線がわけられなければ、診療したくてもできません。

とにかく大々的に「5類感染症」に変更したところで、入院や診療を請け負う医療機関のキャパシティが大きく増えるわけではないということは確かであると思います。

しかし、『COVID-19の感染症法上の分類はどのようにすべきか? という質問に対して、「いまの状況であれば5類へ引き下げたほうが良い」が40.0%と最も多く、「いまの状況では難しいが、5類へ引き下げたほうが良い」が24.0%と続いた。両者を合わせると64.0%が「5類へ引き下げたほうが良い」と考えていた。「新たな類型を作成したほうが良い」は17.7%で、「2類相当のままが良い」は6.1%にとどまった。12.2%が「いずれともいえない・わからない」と回答した。』

64%の医師が5類引き下げには賛成しているようです。

 

恐らく今後も、全世代のコロナ感染者数や高齢者のコロナ死亡者数は高値を維持していくと思われます。

街中であれ、病医院内であれ(もちろん職員も含めて)自分の隣に常にコロナ感染者が普通にいる世の中を、国民は許容していかなければならないということは確かであると思います。