しばらく色々忙しくて、ブログが更新できていませんでした。今日は我々整形外科医にとって非常に大切な’痛み’に関する記事です。
筆者の初期のブログでもこの痛みに関して書かせていただきました。(懐かしいです。)
我々は打撲や捻挫などで突然痛くなった体の部分を手で押さえさすります。また小さいわが子が外傷で痛みを訴える部分を手で抑え「痛いの痛いの飛んでけー」などとやったりします。
この動作の理由の多くは「ゲートコントロール理論」に基づいています。(1)
60年近く前の学説がもとになっています。
ゲートコントロール理論は,MelzackとWallが1965年にScience誌に発表した痛みの制御に関する学説です。
太い触覚神経と細い痛覚神経が脊髄内の介在ニューロンのを介して相互作用し,痛覚が抑制されるという説です。リハビリテーションやマッサージの理論的根拠にもなっています。
さすることや押さえることによって圧・触覚神経が興奮して痛覚神経の興奮を抑制するというものです。
この学説で重要なのは,脊髄に設定したゲートだけではなく,そのゲートが中枢からの調節を受けることでもあります。
痛みの抑制理論「ゲートコントロール説」の現代的意義は? より
上図のSG(substantia gelatinosa)とは膠様質と呼ばれる脊髄後角の第Ⅱ層で,この説ではその抑制機能が重要です。上図では1種類の抑制性介在ニューロンがあるように描かれていますが,膠様質の介在ニューロンは30%が抑制性で,70%が興奮性であることが知られています。(2)
中枢からのコントロールについては,セロトニン(5-HT)やノルアドレナリン(NA)に対するⅡ層介在ニューロンの応答が調べられています。細胞を分類して,5-HTやNAに対する応答を比較すると,興奮性介在ニューロンでは抑制反応,抑制性介在ニューロンでは興奮反応が観察される傾向があるとする報告があります。(2)
この「ゲートコントロール理論」は今から60年近く前の革新的な考えですが、現在は多分に修正が加えられています。(3)
神経生理学的に非常に専門的になりますので詳細は省きます。
お母さんがわが子に対して「痛いの痛いのとんでけー」といってさすってあげるのを、正確に解明することは難しいのではないかと思います。
あと2週間でクリスマスです。忙しい現代社会にあって、家族でゆっくりとくつろぐ時間を持つことは、お互いの痛みや苦しみをいやすために何よりも大切なことであると、再確認すべきであると強く思います。
参考
1)Science
痛みのメカニズム: 新しい理論:ゲート制御システムは、痛みの知覚と反応を引き起こす前に、皮膚からの感覚入力を調節します。
1965年11月19日 150巻、3699号 971~979頁 DOI: 10.1126/science.150.3699.971
https://www.science.org/doi/10.1126/science.150.3699.971?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed
2)痛みの抑制理論「ゲートコントロール説」の現代的意義は?
八坂敏一 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感染防御学講座免疫学分野准教授)
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=5274
3)Front Pain Res (Lausanne). 2022; 3: 984042.
Published online 2022 Sep 13. doi: 10.3389/fpain.2022.984042
脊髄における疼痛調節
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9513129/