ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

好中球の活性化を介した急性炎症反応は、慢性的な痛みの発症を防ぎます

 

今回は、ある意味怖い研究をご紹介します。

British Journal of Sports Medicine
Original research
成功した10秒間の片足スタンスのパフォーマンスは、中高年の個人の生存を予測します

https://bjsm.bmj.com/content/early/2022/06/22/bjsports-2021-105360

ブラジル・Exercise Medicine Clinic-CLINIMEXのClaudio G. Araujo氏らは、CLINIMEXエクササイズコホート研究に参加した中高年を対象に、10秒間の片足立ち検査の結果が全死亡リスクの予測因子となるかどうかを検討し、その結果を、Br J Sports Med(2022年6月22日オンライン版)に報告しました。

2009年2月10日~20年12月10日にExercise Medicine Clinic-CLINIMEXを受診した51~75歳の1,702例(平均年齢61.7歳、男性67.9%)を対象に、身体的、臨床的測定に加えて、10秒間の片足立ち検査を実施。10秒間の片足立ち検査では、正面を向いて両腕を身体の脇に付け、支えなしに片足立ちを行いました。10秒間の片足立ちは3回まで挑戦できることとしました。10秒間の片足立ちを支えなしに行えた場合を「可能」、できなかった場合を「不可能」と判定しました。

10秒間片足立ちが「可能」と判定されたのは1,354例(79.6%)、「不可能」と判定されたのは348例(20.4%)。年齢層別に「不可能」の割合を見ますと、51~55歳では4.7%、56~60歳では8.1%、61~65歳では17.8%、66~70歳では36.8%、71~75歳では53.6%でした。

71~75歳の半数以上が片足立ち不能でした。

10秒間片足立ち可能群と不可能群で死因に差は見られませんでしたが、死亡率は不可能群で有意に高いという結果でした。
年齢、性、BMI、併存症を調整後の解析では、可能群に対し不可能群で10年以内の全死亡リスクが84%高いと推定されました。

ご自身でもやってみてはいかがでしょうか?

 

次に我々整形外科医として、そうであると非常に怖いショッキングな研究です。

マギル大学の研究者は、イブプロフェンやアスピリンなどの抗炎症薬で痛みを治療すると、長期的に痛みを促進する可能性があると報告しています。

Science Translational Medicineに掲載されたこの論文は、傷害回復の正常な部分である炎症が急性の痛みを解消し、慢性化を防ぐのに役立つことを示唆しています。その炎症をブロックすると、このプロセスが妨げられ、治療が困難な痛みにつながる可能性があります。

Science Translational Medicine
好中球の活性化を介した急性炎症反応は、慢性的な痛みの発症を防ぎます
SCIENCE TRANSLATIONAL MEDICINE 11 May 2022 Vol 14, Issue 644
DOI: 10.1126/scitranslmed.abj9954
https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.abj9954

研究者たちは人間とマウスの両方の痛みのメカニズムを調べました。彼らは、好中球として知られている白血球の一種が重要な役割を果たしているように見えることを発見しました。

また研究者らはマウスの好中球をブロックし、痛みが通常の2〜10倍長く続くことを発見しました。抗炎症薬は、短期間の緩和を提供するにもかかわらず、同じ痛みを長引かせる効果がありました。

調査結果は、痛みを治療するために抗炎症薬を服用している人が2〜10年後に痛みを感じる可能性が高いことを示した英国の50万人の別の分析によって裏付けられています。

好中球は、炎症の初期、損傷の開始時に到着します。この研究は、炎症をブロックせず、代わりに好中球に「自分のことをやらせる」方がよいかもしれないことを示唆しています。アセトアミノフェンのように、好中球をブロックせずに痛みを和らげる鎮痛薬を服用する方が、抗炎症薬やステロイドを服用するよりも良いかもしれません。

Medscape
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急性の痛みをどのように治療するかは間違っている可能性があります
2022年6月17日
https://www.medscape.com/viewarticle/975853

全てNSAIDやステロイドが急性疼痛を慢性化させるというわけではないと思いますが、慢性疼痛の一定の割合がこれに該当するとなると大変なことだと思います。

最近その副作用の少なさから、整形領域でも痛み止めとしてアセトアミノフェンの処方が増えていますが、鎮痛効果は低く、患者さんから敬遠され気味であるのが現実です。

今回の研究が広くあてはまるとすると、アセトアミノフェンをもっと多用した方がよいということになります。更なる研究が望まれます。

筆者自身もこういう観点で鎮痛剤を処方し、その後の経過を観察することと致します。