ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

「偽りの自己」の人

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筆者はネットニュースをよく見ますが、中で気になる記事に出会いました。

 

「つらくても一人で頑張ってしまう人」に足りない幼少期の親との経験
2/7(月) 11:53配信 PHPオンライン衆知
加藤諦三(早稲田大学名誉教授、ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)
https://news.yahoo.co.jp/articles/d66e17eb2353fe5ec36d0eb894baa00f848ec63f?page=2

抜粋してご紹介します。

『 世俗の世の中に生きている以上、私たちは人と接することを避けられない。よいコミュニケーションは、よい人生につながるだろう。しかし、どうしても人と打ち解けられない人も存在する。

そうした人は、皆と一緒に何かを楽しむことのできない「偽りの自己」であると加藤諦三氏は指摘する。

「偽りの自己」の人は「皆と一緒に楽しむ」ということができない。「偽りの自己」の人は、小さい頃に「母親と自分との二人だけの世界」を持った経験がなかったのである。人は小さい頃に、この「母親との二人の世界」を持つことを通して、心の中に自分の世界を築き上げることができる。

そうして自立できるから大人になって、人と「親しい関係」を築くことができる。異性・同性を問わず、持続的な人間関係を築くことができる。

少子化の最も根本的な原因は、今の日本に共同体がなくなってきたことであり、個人が「偽りの自己」になってしまったということである。子育ては「喜び」ではなく「負担」になってしまった。市場原理主義は、人から心を奪った。

心の奥の憎しみがコミュニケーションの邪魔をする。
そしてこういう人は、自分の育ったこの環境が、嫌いで嫌いでたまらない。

「独力でうまくやろうと全力を尽くす」ことは立派であるが、独力でやらざるをえなくてやっているだけである。独力でやりたくてやっているのではない。そうしなければ生きてこられなかったのである。

そういう生き方できて、挫折したのが引きこもりである。自立を強制されて自立しようとした。しかし、自立に失敗した。そこで引きこもった。だれも助けてくれないから、一人で頑張る。だれも守ってくれないから、一人で努力する。

自然な成長の結果として、自立性が出てきたのではない。そのつらさがその人のパーソナリティに染み込んでいく。そして、どこか温かみのない人に感じられてしまう。だから親しい友人ができない。

自然な気持ちを抑えて無理をして相手と付き合っているから、長い間にはどうしても相手が嫌いになる。相手が不愉快な存在になる。
だから、長い期間にわたっての親友はいないし、結婚生活も形式的には続いても、情緒的に長くはうまくいかない。

いずれにしても、「偽りの自己」の人の特徴は、本当に楽しいことがないということである。
仕事が本当に楽しければ、高い給料はいらない。奉仕とは、本当は自分に余力のある人が、したいからすることである。「偽りの自己」の人は、自分が奉仕しなければ相手に拒絶されるから奉仕する。奉仕しなければ、低く評価されるから奉仕する。奉仕すべきだから奉仕する。

執着性格者ももちろん「偽りの自己」である。執着性格者は、自分が手を抜いたら相手はやってくれないと思うから頑張る。孤独を逃れるために頑張る。

奉仕することによって、自分の存在がある。無理をして身銭を切っている。だから、奉仕する相手に憎しみを持ってしまう。奉仕したくて奉仕するときには、相手に対してやさしい感情を持つはずなのに。...』 

 

加藤 諦三(かとう たいぞう、1938年〈昭和13年〉1月26日 - )は、日本の社会学者、評論家。早稲田大学名誉教授、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本精神衛生学会顧問、ハーバード大学ライシャワー研究所アソシエイト。ニッポン放送のラジオ番組『テレフォン人生相談』のパーソナリティを務める。

とWikipediaに載っています。

09年東京都功労者表彰。 16年瑞宝中綬章受章。 現在、早稲田大学名誉教授、ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員、日本精神衛生学会顧問、早稲田大学エクステンションセンター講師。
84歳 (1938年1月26日)でおられます。

 

自分を理解し許容することはむつかしいことですが、自分を前に進めるために、また周囲の人たちとうまく付き合っていくためにも必要なことです。

筆者自身も含め周囲には、「偽りの自己」を持つ人たちが確かにいます。上の記事では分析はしますがそれではどうしたらよいか、あるいは目の前にそれで悩んいる人がいたらどうアドバイスしたらよいか、どう付き合っていったらよいかなどの示唆は記述されていません。加藤氏の著作を読むしかないのかもしれません。

少なくともその人が「偽りの自己」であるという自覚を持つことからスタートすべきでしょう。それ以降はその人それぞれかと思います。ただ注意したいのは全て幼少期の親や環境のせいにするのは建設的ではありません。

なんでもいいのですが、まず心の底から楽しいと思えることを探すことも一つかもしれません。

筆者はいつも外来でたくさんの患者さんとお話をします。いつもは悩み事にもできるだけお聞きするだけにしていますが、中には前向きな答えが必要な方もおられます。

そんな時こういう概念の存在を知っていることは、非常に役に立ちます。

とにかくいつも思うのは、人間というのはつくつ’’く複雑な生き物だなあということで、この正解のない多くの疑問を抱える人間とのかかわりを職業にできたことだけでも、自分の幸せであったと強く思います。

 

最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。

 

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