ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

マスク着用の運動

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により長く自粛生活を余儀なくされ、健康のため屋外やジムなどで体を動かしたいと思っている方は、少なくないと思います。

しかし感染予防のためマスクが必要とされますが、マスクを着用しながらトレーニングを行うことで、呼吸機能や心臓への負担が増すのではないかと不安になる方もおられることでしょう。

今回は、そういう方の不安を少しでも解消できる情報です。

 

Research Letter Nutrition, Obesity, and Exercise
June 30, 2021
ピーク運動時の成人におけるN95呼吸器または布製マスクの着用の影響
ランダム化クロスオーバー試験
JAMAネットワークオープン。2021; 4(6):e2115219。doi:10.1001 / jamanetworkopen.2021.15219

 

メソッド
20人の非喫煙者、明らかに健康で、レクリエーション活動をしている男性と女性。
全ての研究参加者に、マスクなし、布製マスクの着用、N95マスク(微粒子の吸入量抑制に優れているマスク)の着用という3つの条件下でトレッドミル運動負荷試験を行うという、クロスオーバー法による研究。

結果
疲労困憊に至るまでのトレッドミルの運動持続時間は、マスク非着用条件の591±145秒に対し、布製マスク着用条件では548±147秒、N95マスク着用条件は545±141秒であり、マスクを着用した時の方が短いという有意差が見られました(P=0.047)。
主観的な呼吸抵抗感が、マスク非着用条件と着用条件とで差が最も大きかった。具体的には10点満点のスコアで、マスク非着用条件での呼吸抵抗感が0点(四分位範囲0~0)であったのに対して、布製マスク着用条件では7.0点(同5.3~8.0)、N95マスク着用条件では7.0点(同5.5~8.3)と有意差が見られました(P<0.001)。
湿気や熱気などにも以下のように条件間の有意差が見られました。湿気についてはマスク非着用条件の0点(同0~1.0)に対して、布製マスク着用条件は6.3点(同3.5~7.8)、N95マスク着用条件は7.0点(同5.5~8.0)、熱気については同順に0点(同0~1.5)、6.3点(同3.3~7.5)、7.0点(同5.0~8.0)でした(いずれもP<0.001)。

議論
各実験条件は、一般的に正常範囲内にとどまるピーク運動値をもたらし、臨床的に示された安全上の懸念のためにESTは終了を必要としませんでした。したがって、マスクを着用すると運動能力に物理的な制限が及ぶ可能性はありますが、そのような可能性の臨床的関連性はこれらのデータによって裏付けられていません。

 

マスクを着用してのトレーニングは一般的に安全と考えられます。ただし、呼吸抵抗感などの主観的な負荷が増大し、結果としてマスク着用時にはつらさが増すことは避けられない可能性があります。

なお、本研究の参加者は全て健康な人であり、心臓や呼吸器の慢性疾患のある人は除外されています。
基礎疾患のある人は、マスク着用の有無にかかわらず、運動をすることの可否について医師に相談の必要があります。

 

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