ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

空気感染

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英国型変異株での感染の増加がクローズアップされていますが、原点に返り感染経路についてもう一度よく考えてみたいと思います。

 

1)

社説
Covid-19は空中伝播を再定義しました
BMJ 2021 ; 373 doi:https ://doi.org/10.1136/bmj.n913(2021年4月14日公開)

2)

社説

 Covid-19:SARS-CoV-2の空中伝播について私たちは何を知っていますか?
BMJ 2021 ; 373 doi:https ://doi.org/10.1136/bmj.n1030(2021年4月22日公開)

 

まず「空中伝搬粒子」の用語を統一した方がいいという意見です。

 

「空中」に分類される呼吸器感染症(空気中に浮遊するエアロゾルによって広がる)と、より大きな「飛沫」を含む他の経路を介して広がる感染症を区別します。
エアロゾルは、気道からの小さな液体粒子であり、たとえば、誰かが息を吐いたり、話したり、咳をしたりしたときに生成されます。エアロゾルは直径5ミクロン以下の液体粒子です。
それらは空中に浮かんでおり、はしかや水痘などのように、生きたウイルスを含む可能性があります。
インフルエンザなどの病気は、主に大きな呼吸器「飛沫」を介して広がると考えられています。これらは浮きにくいため、発生源から1〜2m以内で地面に落下する可能性が高くなります。

基本的に、粒子のサイズや名前に関係なく、粒子を吸入できる場合は、エアロゾルを吸い込んでいます。
より大きな短距離粒子を「液滴」と呼んだり、より小さな長距離粒子を「液滴核」と呼んだりしますが、それらは空気から直接吸入できるため、すべてエアロゾルです。

つまり飛沫なのかエアロゾルなのかを大きく区別しろということです。

 

昨今の変異株の感染性の高さがクローズアップされるに伴い、コロナウイルスの空中伝搬(エアロゾル伝搬)の可能性について再び脚光を浴びているように思います。 

 

3) 

The Lancet Journal
コメント| 397巻、10285号、P1603-1605、2021年5月1日
SARS-CoV-2の空中伝播を支持する10の科学的理由

公開日:2021年4月15日DOI:https ://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)00869-2

(飛沫感染の場合) 

感染性ウイルスが主に急速に落下する大きな呼吸器飛沫を介して広がる場合、主要な管理手段は、直接接触の低減、表面の洗浄、物理的障壁、物理的距離、飛沫距離内でのマスクの使用、呼吸器衛生などであり、屋内と屋外を区別する必要はありません。

路上飲みは屋外であってもこれに該当します。

(エアロゾル感染の場合)

感染性ウイルスが主に空中浮遊している場合、感染者が息を吐いたり、話したり、叫んだり、歌ったり、くしゃみをしたり、咳をしたりするときに発生するエアロゾルを吸い込むと、感染する可能性があります。

 新型コロナウイルス感染症において、この空気感染を支持する10の理由を、引用文献とともに論理的に説明しています。

 

第一に、合唱団のコンサート、クルーズ船、食肉処理場、介護施設、矯正施設などでの超拡散イベントは実質的なSARS-CoV-2感染の原因となります。

このようなイベントの発生率が高いことは、エアロゾル伝播の優位性を強く示唆しています。

 スーパースプレッダーはCOVIDのパンデミックを引き起こし、それを飼いならすのに役立つ可能性があります。
Nature. 2021; 590: 544-546

 

第二に,隣接する部屋にいるがお互いの前にいることのない人々の間でのSARS-CoV-2の長距離感染は、検疫ホテルで記録されています。

ニュージーランド(アオテアロア)の国境検疫および空の旅中の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2の感染。
新興感染症 2021;(3月18日オンライン公開)
https://doi.org/10.3201/eid2705.210514

 

第三に、咳やくしゃみをしていない人からのSARS-CoV-2の無症候性または発症前の感染は、全世界の感染の少なくとも3分の1、おそらく最大59%を占める可能性が高いといっています。

COVID-19症状のない人からのSARS-CoV-2感染。
JAMAネットワークオープン。 2021; 4 e2035057

 

第四に、SARS-CoV-2の伝播は屋外よりも屋内で高く、 屋内換気によって大幅に削減されます。 どちらの観測も、主に空中伝播経路をサポートしています。

急性期病院のSARS-CoV-2クラスター。
アンインターンメッド。 2021;(2月9日オンライン公開)
https://doi.org/10.7326/M20-567

 

第六に、生物学的活性のあるSARS-CoV-2が空中で検出されました。実験室での実験では、SARS-CoV-2は空気中で最大3時間感染性を維持し、半減期は1・1時間でした。
COVID-19患者が占めていた部屋の空気や感染者の車からのサンプルで特定されました。

SARS-CoV-1と比較したSARS-CoV-2のエアロゾルおよび表面安定性。
New Engl JMed。 2020; 382: 1564-1567

 

第7に、SARS-CoV-2は、COVID-19患者のいる病院のエアフィルターと建物のダクトで確認されています。そのような場所にはエアロゾルによってのみ到達することができたと考えられます。

COVID-19病棟におけるSARS-CoV-2の長距離空中分散。
SciRep。2020 ; 10: 1-9

 

第8に、エアダクトを介して別々にケージに入れられた非感染動物に接続された感染したケージに入れられた動物を含む研究は、エアロゾルによってのみ適切に説明できるSARS-CoV-2の伝播を示しました。

SARS-CoVおよびSARS-CoV-2は、1メートルを超える距離でフェレット間の空気を介して送信されます。
ナットコミュン。 2021; 12: 1-8

 

第九に、私たちの知る限り、空中SARS-CoV-2感染の仮説に反論する強力なまたは一貫した証拠を提供した研究はありません。

 

第10に、他の主要な感染経路、すなわち呼吸器飛沫または媒介生物を支持する証拠は限られています。
空気を共有する場合の少数の遠隔感染に伴う近接感染は、感染者からの距離に伴う呼気エアロゾルの希釈によって説明される可能性が高くなります。
小さいエアロゾルは液滴よりも高い病原体濃度を示しました。

感染性エアロゾルの粒子サイズ:感染制御への影響。
ランセットレスピリットメッド。 2020; 8: 914-924

結論
空中伝播に疑問を投げかけることは科学的誤りであると提案します。SARS-CoV-2が空中伝播によって広がるという一貫した強力な証拠があります。他のルートも貢献できますが、空中ルートが支配的である可能性が高いと考えています。

 

 次に筆者が以前から疑いを持っていた電車の中でのエアロゾル感染の知見につながる、空気中のサンプルの検査に関してです。

 

4) 

研究論文
公共の場所や交通機関の空気中のSARS-CoV-2の存在
Atmospheric Pollution Research
Volume 12, Issue 3、2021年3月、302〜306ページ

概要
この研究では、イランのテヘランにあるショッピングセンター、郵便局、銀行、官公庁、空港、地下鉄、バスなどの公共交通機関の空気中のSARS-CoV-2の存在を調査しました。公共および輸送場所の8つのグループから合計28の空気サンプルが収集されました。
サンプルの64%で、SARS-CoV-2 RNA(公共の場所と交通機関からそれぞれ62%と67%)が検出されました。銀行で陽性サンプルが検出された(33%)、ショッピングセンター(100%)、官公庁(50%)、空港(80%)、地下鉄の駅(50%)、地下鉄の電車(100%)、バス(50%)。
この研究は、ほとんどの公共の場所と輸送車両の空気がSARS-CoV-2で汚染されていることを示しました。したがって、COVID-19の蔓延を制御するための戦略には、屋内空間にいる人の数を減らすこと、輸送車両のより強力な消毒、および人々にマスクの着用を要求することが含まれるべきです。

 

最近の変異株における感染性の増加が、ひとえにウイルスによる人の細胞への接着性の増加のみで説明されていますが、もしかしたらこの B.1.1.7変異株 は、飛沫感染よりエアロゾル感染しやすいのではないだろうかと疑いたくなります。なぜなら、一気に全国的に、英国株が従来型に置き換わってしまいましたから。3密回避などの従来の予防策では不十分なのではないでしょうか。

であれば一番気を付けるべきは、地下鉄駅や電車内です。

これ以上感染者が増えるようであれば影響が一番大きい東京を、一度ロックダウンすべきです。

新型コロナウイルスが、麻しん、結核や水痘(みずぼうそう)のような空気感染 で主に伝搬するとなると、 電車や飛行機のような狭い空間において、飛沫感染は感染者の半径2メートル程度の乗客が高い感染リスクであるのに対して、空気感染では同乗者全員が高い感染リスクを背負うことになるのです。

 しかも現実的に保健所業務は破綻しており、感染者の行動が追えないようですし、厳密に何時発の電車の何両目にいたかなどという履歴はわかりようがなく、電車のリスクは気付かれません。

 恐らくサンプルサイズが相応にある首都圏の通勤客のコホート研究をすればわかってくると思います。参加者に行動を詳細に記録してもらって。

欧米が感染の見事な V 字回復をしているのは、ワクチンのおかげだけではなく、ロックダウンによって徹底的にエアロゾル感染を防いだ結果かも しれません。交通を広範囲に止めたからではないでしょうか。

 

drhirochinn.work

今蔓延している変異株が、飛沫感染よりも多く空気感染をして広がっていくとすると、感染者数・重症者数が一気に増えていき、医療崩壊の結果、死亡者数・死亡率を上昇させることにつながっていきます。今一度感染経路の原点に立ち返って感染予防策を見直してみてはどうでしょう。

 

とにかく今大切なのは、ワクチン接種のスピードです。情けない「抜け駆け接種」などのネガティブ報道はやめにして、全国的なワクチン接種の実施状況を克明に伝えて、少し自治体同士を競わせてみるのはどうでしょう。

 筆者の職場の近隣の町では、ネットでの予約の結果、接種が9月になるという地域もあります。政府が言っている7月中とは、何なのでしょう? 

ワクチン接種に関し、今筆者もかかりつけの患者さんに対してどんどん予約を取らせていただいてる最中です。

国民みんなが、少しの不公平や役人のミスは大目に見て、とにかく少しでも早くワクチン接種を完了することだけを目指して、お互いに協力すべき時であると思います。

 

 いつもながら最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。

 

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