今日は「漢方薬」についてお話してみたいと思います。
皆さんは、漢方薬と言って思い浮かべるのは、西洋薬と比べて効果はちゃんとあるのに、副作用がほとんどない薬というイメージでしょうか?
最近では少しずつ漢方薬を使う医師が増えてきているように思います。
筆者が非常勤で外来をやっている整形外科単科のクリニックで、漢方薬をもっぱら使われる先生がいますが、失礼ながらあまり効果的ではないように見えます。
筆者自身は、#68芍薬甘草湯を筋クランプ(こむら返り)に使うのみで、それ以外の漢方薬はあえて使いません。
そもそも漢方治療の保険給付は、1961年に国民皆保険制度が実現し開始されました。
1967年に初めて6種類の医療用漢方製剤が薬価収載され、1976年には42処方、60品目が一挙に導入されました。2000年現在では、148処方、849品目に至っています。
しかし1976年漢方薬のエキス剤が、一般の医薬品に適応される安全性試験の審査なしに、健康保険の適用になっています。
日医雑誌第146巻・第2号/平成29年5月に筑波大名誉教授、内藤裕史先生が寄稿されています。
以下に、寄稿文を要約してお伝えします。
漢方生薬の発がん性と流早産・不妊・先天奇形の可能性
はじめに
流早産・不妊・先天奇形という薬の副作用は、抗がん剤のように覚悟のうえでの副作用と違って、あってはならない副作用である。1976年、漢方薬のエキス剤が一般の医薬品に適応される安全性試験の審査なしに健康保険の適用になって以来、その生殖毒性について関心が払われずに現在に至っている。
Ⅰ.添付文書に基づく情報
医療用漢方製剤の添付文書は、大黄牡丹皮・芒硝・桃仁・牛膝・紅花の6種類の生薬のいずれかを含有する製剤について、「流早産の恐れがある」「流早産を引き起こす可能性がある」と記載している。
Ⅱ一般用市販薬
一般用市販薬で、流早産の危険性がある上記6種の生薬を成分として含む製品は、2014年現在、大黄404種、牡丹皮279種、桃仁149種、牛膝68種、紅花66種、芒硝13種の計979種に上る。
漢方薬は不妊治療の現場でも使われているが、上述の実情から見て、流早産、不妊症の一部は、漢方薬が原因の一つになっている可能性も否定できない。
Ⅲ添付文書に記載のない新事実
1.黄連・黄柏の発がん性
2011年、米国のNational Toxicology ProgramとNational Institute of Environmental Health Scienceは、健康食品ヒドラスチス根の発がん試験を行い、その粉末はラットで肝細胞腺腫、肝細胞癌を発生させ、発がん性が認められると発表。(1)
漢方生薬の黄連は、ヒドラスチス根と同じ、ベルベリンアルカロイドを成分とするキンポウゲ科オウレン属植物そのものである。
2.ベルベリンアルカロイドの発がん性とDNA傷害
2013年、米国のNational Center for Toxicological Research のChenらはベルベリンの発がん機序について実験を行い報告した。(2)
米国の国家機関によりベルベリンアルカロイドの発がん性とそれがⅡ型トポイソメラーゼ阻害によるDNA傷害によるものであることを疑問の余地がないまでに明らかにし、2015年国際がん研究機関(IARC)は、ヒドラスチス根を発がん物質に指定した。
3.Ⅱ型トポイソメラーゼ阻害による発がん性と生殖毒性
ベルベリンのようにDNAを傷害することによってがんを発生させる遺伝毒性発がん物質は、少量短期間の摂取でがんを発生させる。
Ⅱ型トポイソメラーゼ阻害薬のエトポシドは、漢方生薬の八角蓮の成分ポドフィロトキシンから作られたものであるが、ヨーロッパの一部、オーストラリア、香港、台湾などのハーブショップでは八角蓮もポドフィロトキシンも堕胎薬として売られており、米国でもポドフィロトキシンは1980年頃までは、人口流産目的の医薬品として売られていた。
4.大黄の成分アントラキノン類の発がん作用とTopoⅡ阻害作用
2005年、米国のNational Toxicology Programは、アントラキノンは、ラットやマウスで腎臓・膀胱のがん、肝臓がんを起こすと発表した。
大黄に含まれるアントラキノン類のエモジン、アロエエモジンはTopoⅡ阻害作用によりDNAに傷害をもたらし遺伝毒性を示す。
おわりに
医療用漢方製剤の中で受精卵の成長阻害や流早産・不妊・先天奇形を起こす可能性があると合理的に想定されるものは、現在のところ、黄連または黄柏を含む17種と大黄を含む18種の製剤である。動物実験の段階とはいえ、十分な状況証拠があるので、影響の深刻さを考慮し、適切な措置を講ずる必要がある。
以上寄稿文をお伝えしました。
なお、内藤裕史筑波大学名誉教授がまとめられた「漢方薬副作用百科」には生薬の副作用が書かれています。
●黄連・黄柏を含む製剤
商品名 温清飲、黄連解毒湯、荊芥連翹湯、柴胡清肝湯、コタロ-竜胆寫瀉湯
副作用 発ガン性、受精卵の成長抑制
●大黄・牡丹皮・芒硝・桃仁・牛膝・紅花を含む製剤
商品名 大黄を含む「防風通聖散」「大黄甘草湯」など18種類
牡丹皮を含む「温経湯」など11種類
副作用 流早産の危険性
●山梔子を含む製剤
商品名 温清飲、黄連解毒湯、
加味逍遥散など14種類。
一般用の300種類以上
副作用 腸管膜静脈硬化症
●黄芩を含む製剤
商品名 小柴胡湯、柴苓湯、黄連解毒湯、
柴胡桂枝湯など29種類、
一般用の560種類に含まれる
副作用 肺機能障害、肝機能障害、膀胱炎
●甘草を含む製剤
商品名 葛根湯、柴胡桂枝湯、
防風通聖散など108種類、
一般薬の1000種類にも含まれる
副作用 擬性アルドステロン症
注:副腎からのアルドステロンが分泌されていないのにあたかも過剰に分泌されているような症状を起こす
●麻黄を含む製剤
商品名 葛根湯、小青竜湯、防風通聖散、
麻黄湯など16種類、
一般の400種類にも含まれる
副作用 心臓突然死、脳卒中、心筋梗塞、うつ病
●芍薬・牡丹皮を含む製剤
商品名 芍薬甘草湯、当帰芍薬散、
桂皮茯芩丸、葛根湯、小青竜湯など
副作用 流早産、肝機能障害、間質性肺炎など
これら生薬の平成22年度の国内使用量は,黄連が4万2,998kg,黄柏が22万3,865kgです。ベルベリンの含有量は日本薬局方の規格によれば前者が4.2%以上,後者が1.2%以上ですから,黄連中のベルベリン量は1,806kg,黄柏中のそれは2,686kg,ベルベリンの総量は4,492kg以上です。一方,前述のようにマウスで受精卵の成長阻害作用が見られたのが100μgでこれはヒトで200mgに相当するということから,仮にヒトが1日100mgのベルベリンを365日間摂ってがんが発生するとすると,36.5gでがんが発生することになり,上述の4,492kgのベルベリンは12万8千人にがんを発生させる量で,しかも黄連,黄柏にはベルベリン以外にもパルマチンなどの発がん物質が含まれています。(3)
安全性試験の審査なしに、健康保険の適用になった「漢方薬」の実態が以上です。
筆者はとても使う気になれません。
医療用漢方製剤では18種の製剤ですが、一般用市販薬では979種に上ります。
適切な措置を講ずる必要があると、筆者も強く思います。
参考文献
1)Natl Toxicol Program Tech Rep Ser 2010年8月;(562):1-188。
F344 / NラットおよびB6C3F1マウスにおけるヒドラスチス根粉末(Hydrastis Canadensis)の毒性学および発がん性研究(飼料研究)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21372858/
2)トキシコルレット 2013年7月31日; 221(1):64-72 Epub 20136月5日。
ゴールデンシール関連DNA損傷のメカニズム研究 PMID: 23747414 DOI: 10.1016 / j.toxlet.2013.05.641
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23747414/
3)【寄稿】漢方薬の生殖毒性,遺伝子毒性,発がん性
筑波大学名誉教授 内藤裕史
Medical Tribune
https://medical-tribune.co.jp/mtpronews/1407/1407001.html