ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

整形外科に行って 注射 されました

今世間は、親中派ー嫌中派、トランプ派ー反トランプ派、グローバリズムー反グローバリズム等々、以前から存在している二極化がさらに激化しているような気がします。

お互いに求める目標は人々や自分の幸福であるのに、それを得るための方法が全く相反するということ。 私が医学、医療に自らの身を置いていつも考えることは、一つの目的を得るための方法は一つだけでは決してないということです。

一つの病気、障害を治療するのに方法が現実に一つということはあり得ません。常に複数存在します。 なぜなら、医療技術は常に進歩しているし、同じ時代でも様々な治療法が並存しています。

保存的治療と手術的治療、両方ともたくさんの方法が並立しています。 ということは、ただ一つでは決してないということです。

つまり、複数存在することが常に正しいあり方であり、違うことを理由に相手を攻撃したり、否定したいけないということなのだと思います。

寛容の精神、多様性を認めるということは、そういうことだと思いますし、「民主主義の基本」などと言わずともそれが自然なことなのだと、私は強く思います。

今まで、整形外科外来の実際を色々お話してきましたが、今回は 注射 治療の実際を少しお話したいと思います。

通常皆さんが 注射 と聞いて連想するのは、痛み止めの 注射 だと思います。

健康保険の診療報酬点数表上は、「麻酔」の中の「神経ブロック」に相当するものです。

私が居るところのような、無床の医院・クリニック・診療所で行われる、ブロック注射などの痛み止めについてお話させていただきます。

尚カッコの中に診療報酬上の手技上の点数(1点=10円)を付け加えます。

実際には、薬代(局所麻酔薬やステロイド)が加わります。

A) ブロック注射

  1)トリガーポイント注(80点)

   別名、圧痛点ブロックといって圧痛のある場所に局所麻酔薬或いは局所麻酔薬とステロイド、ノイロトロピンなどを混ぜて注射する手技です。

外来で一般に一番多く実施されるのがこれです。

週一回ぐらいが通常の頻度だと思いますが、頻回にすると硬結ができたりして逆に痛みの原因になる場合、或いは頻回にステロイドを混ぜて注射すると、ステロイドの長期連用の副作用(高血圧、高脂血症、糖尿病、体重増加)などを、 併発する可能性があります。 ステロイド使用の目安は月1回ないし多くて2回までと考えた方がよいと思います。

2)仙骨部硬膜外ブロック (340点)

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患者さんには腹臥位になってもらい、仙骨裂孔という場所(皆さんが尾てい骨と呼ぶところの近く)から硬膜外腔に注射針を侵入させ、局所麻酔薬或いは局所麻酔薬とステロイドを混ぜた薬液を概ね10ml程度注入します。

私のところでは注射の直前、直後、30分後に血圧測定と状態確認をします。 ここで注意することは、逆行性感染防止のため当日は入浴禁止にします。 又、局所麻酔薬は原液のままは使わずに生理食塩水などで希釈します。そうしないと、まさに麻酔がかかってしまい数時間起立・歩行ができなくなるということと、稀にクモ膜下腔が仙骨のほうまで下りてきている患者さんがいて、誤ってくも膜下腔に薬液を注入すると最悪 total spinal となり呼吸停止の可能性もあります。

ですから私は、ほとんどの場合腰椎 M R I でそれを確認してから、仙骨硬膜外ブロックを実施するようにしています。

腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の一部の方が、効果を期待できると思います。

3)肩甲上神経ブロック(170点)   肩甲背神経ブロック(170点)

4)坐骨神経ブロック(90点)   大腿神経ブロック(90点)

これらも同様に局所麻酔薬或いは局所麻酔薬とステロイドを注射します。仙骨硬膜外ブロックの様な注射後の安静も入浴制限も必要ありません。

5)神経根ブロック(1500点)

主に腰椎椎間板ヘルニアなどで下肢の症状の原因となる神経が腰椎より分岐するところにレントゲンの透視装置を見ながら造影検査をするとともに局所麻酔薬を注入するもので、誤ってくも膜下腔に注入される場合があったり、透視下に実施されますので主に入院施設のある病院で行われます。このブロックの効果はかなり期待できます。

6)頸部、胸部硬膜外ブロック(1500点)

7)腰部硬膜外ブロック(800点)

上記は直接そこの部位の硬膜外スペースに薬液を注入するもので、一番の問題は誤ってくも膜下腔に注入してしまうことで、入院施設のない医療機関では、実施しない方がよいと思います。

B)エコーガイド下fasciaハイドロリリース

Fascial pain syndrome ( F P S )という疾患概念が最近整形外科で提唱されてきました。 ”fascia"は直訳すると筋膜ですが、この疾患概念では筋膜を中心に、腱・靭帯・末梢神経なども広範に含む器官を指し、疼痛を感知する神経が豊富に存在して多くの痛みの原因になるという概念のようです。

この考えに基づいて、エコーガイド下にできるだけ正確に原因とみられる局所に生理食塩水ないし局所麻酔薬(状況によりステロイド添加)を注入し層状の組織を剥離( release )などする手技と理解しています。私も現在症例を重ねて勉強している最中です。

C)静脈注射或いは点滴静注する痛み止め

サリチル酸ナトリウムやノイロトロピンなど使用されることがあります。 私自身はあまり使いませんが、効果があると言う患者さんもおられます。(偽薬効果かもしれませんが)

D)変形性膝関節症に対するヒアルロン酸関節内注射

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ブロック注射と同じくらいの頻度で行われる注射治療です。

実際は、外来診察室において診察台に寝て頂き刺入部をイソジンかヒビテン液で消毒の上、膝関節の外方・頭側より関節内に刺入するもので、現在分子量により3種類の製品があります。

一番多く使われるのは、分子量が50~120万のもので、その次が270~367万の薬です。これら2種類は週一回を5回まで注射し効果がすごくあれば終了、不十分なら2~4週に一回関注を継続します。 この注射治療と運動器リハビリテーションを一緒にするとかなりの方が、良くなっていかれます

関節内注射で一番問題となるのは、感染であり、化膿性関節炎を起こすと入院して滑膜切除や持続還流などの手術が必要になり、治っても急速に変形性関節症が進行します。

なおこのヒアルロン酸の関節内注射は肩関節周囲炎、関節リウマチにも適応があります。

E)最新の治療 (残念ながら当院ではできません)

1) 多血小板血漿( P R P )を変形性関節症に対して関節内外に注射したり、腱・靭帯損傷に対して局所に P R P を注射する。

2) 自己由来微小細断脂肪組織片( M F A T )を変形性膝関節症に対して関節鏡視下に関節内に注入する。

3) 自己脂肪組織由来幹細胞を変形性膝関節症に対して関節内に注射する。

治療など、新しい治療が続々と登場しています。

今後再生医療は、もっと一般的になっていくものと思われ、変形性関節症で苦しむ患者さんが減っていくことを祈ってやみません。

参考図書

1)木村裕明ら:エコーガイド下fasciaハイドロリリースによる拘縮肩・腰痛の治療、MB Orthopaedics vol33,no.10,全日本病院出版会 、2020

2)岡 敬之:変形性膝関節症患者に対するヒアルロン酸製剤関節内注入療法、MB Orthopaedics vol33, no.10,全日本病院出版会、2020

3)剣持 雅彦:変形性膝関節症に対する多結晶版血漿( P R P )の関節内注入療法、MB Orthopaedics,vol33 no.10,全日本病院出版会、2020

4)舘 慶之ら:変形性膝関節症に対する自己由来微小細断脂肪組織片(micro-fragmented adipose tissue:MFAT)による治療の短期成績、MB Orthopaedics,vol33,no.10,全日本病院出版会、2020

5)傍島 聰ら:変形性膝関節症に対する自己脂肪組織由来幹細胞の治療、MB Orthopaedics vol,33,no.10 全日本病院出版会、2020