ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

変形性膝関節症

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今回の記事も整形外科に関してです。外来の診療のおいて腰痛とともに非常に多い症状が膝関節痛です。

50歳以上の患者さんはおおむね変形性関節症かこれにまつわる半月板の症状で来院されます。筆者のところでは身体所見を取らせていただいた後、XP検査を施行しその後MRI検査をお受けいただきます。半月板や骨・軟骨の変性の程度・部位、骨髄内病変の有無などが一目でわかり、診断・治療に非常に有益です。

変形性関節症との診断後、治療のご説明に入りますが、この時患者さんより時々「静かにしていた方がいいでしょうか?」との質問があります。

一つ論文をご紹介します。

レクリエーションの身体活動と変形性膝関節症のリスク:個々の参加者レベルのデータの国際的なメタ分析
First published: 03 November 2021 https://doi.org/10.1002/art.42001
Arthritis and Rheumatology

目的
膝の変形性関節症(OA)を発症するリスクに対する身体活動(PA)の影響は不明です。私たちの目的は、同等のPAとOAの定義を使用して、レクリエーションPAと偶発的な膝OAの結果との関係を調べることでした。
合計N = 5065の参加者
結論
私たちの調査結果は、スポーツを含むレクリエーション活動中の全身の生理学的エネルギー消費と身体活動に費やされた時間は、偶発的な膝OAの結果とは関連していなかったことを示唆しています。

 

 

スポーツを含むphysical activity は全く変形膝関節症の発症や悪化に関係していないという結果でした。

それでは外来でのリハビリ治療ですが、筆者が個人的に思うのは、膝関節は荷重関節であり体重の荷重時にぶれずに体重を支える必要があります。このためには大腿部の充分な筋力と膝周りの靭帯の良好なバランスが不可欠です。このために運動器のリハビリが必要なのであり、当院では理学療法士にこれを依頼しています。

この”ぶれ”に関して、膝内側にかかるストレスをはかる指標として外部膝内反モーメント=KAM(external knee adduction moment)があります。

 

診断基準への採用を目指す!新たな膝OA予後リスク判定デバイスとは
CareNet https://www.carenet.com/news/general/carenet/53399

 

“KAM”(膝内反モーメント=膝の力学的負荷)とはラテラルスラスト(歩行時の立脚中期に特徴的に観察される膝関節の横ぶれ)を定量化したもので、膝OAの進行予測・治療効果判定に有用と考えられています。

10月29日にWeb開催された日本抗加齢協会主催『第3回ヘルスケアベンチャー大賞』において、変形性膝関節症の進行予後を推定するウェアラブルデバイスを開発した、株式会社iMUが大賞に選ばれました。
同社は慶應義塾大学医学部発のヘルスケアスタート・アップであり、受賞に結び付いた製品は、膝OAの進行予後リスクが5m歩くだけで見える化できるウェアラブルデバイスです。

このデバイスを使ってKAMを測定した場合、KAMが閾値未満であればマイルドな治療で経過観察と診断、一方でKAMが閾値以上ならOA進行リスクが高く積極的な介入治療が必要と診断できます。

膝関節の最新情報でした。

 

もう一つ論文です。

nature  Published: 09 August 2021

Scientific Reports
変形性膝関節症患者の歩行速度と膝内転モーメントに対する筋力トレーニングの効果:系統的レビューとメタ分析
https://www.nature.com/articles/s41598-021-95426-4

目的・方法
系統的レビューは、生体力学的観点から膝変形性関節症(OA)リハビリテーションにおける筋力トレーニングの効果を分析することを目的としました。
164人の患者が歩行速度研究に関与し、別の122人の患者がKAM研究に参加しました。

結論
このレビューは、変形性膝関節症患者の歩行速度とKAMに対する筋力トレーニングの効果をまとめたものです。レジスタンストレーニングは歩行速度を改善することがわかりましたが、OA患者のKAMは改善しませんでした。変形性膝関節症の進行のリスクを軽減し、変形性膝関節症患者の生活の質を改善できる要因を特定するには、KAMに対する歩行関連の機能トレーニングの効果に関するさらなる研究が必要です。

 

リハビリによって歩行速度は速くなり膝痛も軽減するが、KAM自体は改善しないとのことです。

今後の研究に期待しましょう。

最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。

 

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