ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

ワクチン接種後の血栓症および血小板減少症

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https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html

ワクチン接種も政権の存続をかけて必死に行われているようです。

実際にワクチン接種を行う筆者の立場として、ワクチン接種後の重篤な副反応には強い関心があります。医学者の立場から、政府のように因果関係不明とばかり言ってはおられません。

以前からワクチン接種後の血栓症や出血に関しては強い興味があり注目していました。

 

ChAdOx1nCoV-19ワクチン接種後の血栓症および血小板減少症
2021年6月3日
NEngl J Med 2021; 384:2124-2130
DOI:10.1056 / NEJMoa2104882

 

 ChAdOx1 nCoV-19ワクチン(アストラゼネカ)は、Covid-19の患者と密接に接触していない65歳未満の医療専門家に投与されています。2021年3月20日の時点で、ワクチンの投与が一時停止されたとき、ノルウェーでは合計132,686人がChAdOx1 nCoV-19ワクチンの初回投与を受けており、2回目の投与を受けた人はいませんでした。
ChAdOx1 nCoV-19による最初の予防接種を受けてから10日以内に、32〜54歳の5人の医療従事者が異常な部位での血栓症と重度の血小板減少症を示しました。患者のうちの4人は大脳出血を持っていました。ここでは、オスロ大学病院に入院したこれら5人の患者に見られる重度の血栓症と血小板減少症のこのワクチン誘発症候群について説明します。

ワクチン接種後に発生した血栓症・出血の5例報告です。

 

患者1
ワクチン接種の1週間後。
頭痛のある37歳の女性。
重度の血小板減少症であることが判明。
左横行静脈洞およびS状静脈洞に血栓症。

患者2
42歳の女性。
ワクチン接種の1週間後に頭痛。
血小板数は1立方ミリメートルあたり14,000。
左半球に横静脈洞およびS状静脈洞の閉塞と出血性梗塞を伴う静脈血栓症。

患者3
32歳の男性。
ワクチン接種の7日後に腰痛。
重度の孤立性血小板減少症を示しました。
左肝内門脈および左肝静脈の閉塞を伴う門脈のいくつかの枝の血栓症。また、脾静脈、奇静脈、半奇静脈に血栓症が認められました。

患者4
39歳の女性。
ワクチン接種の8日後に腹痛と頭痛。
血小板数は1立方ミリメートルあたり70,000でした。
深部および表在性脳静脈に大量の血栓症と右小脳出血性梗塞を示しました。

患者5
54歳女性。

ワクチン接種の1週間後。

脳卒中の症状。
血小板数は1立方ミリメートルあたり19,000。

 患者1,2,5、は亡くなっています。

 

血小板(けっしょうばん、英: platelet または thrombocyte)は、血液に含まれる細胞成分の一種です。血栓の形成に中心的な役割を果たし、血管壁が損傷した時に集合してその傷口をふさぎ(血小板凝集)、止血する作用を持ちます。

血小板数の正常値は15~45万/μLです。

血栓ができて大量の血小板が消費されると今度は出血しやすくなりますので、血栓症と出血は表裏一体の病態といえます。 

 

5人の患者さんの4人は女性で、頭痛が主訴でした。腰痛の方も1人おられ筆者も整形外科医として注意が必要です。

 

 d-ダイマーのレベルは、すべての患者の入院時に上昇しました。国際標準化比(INR)と活性化部分トロンボプラスチン時間は正常範囲内でした。フィブリノーゲンレベルは、患者2では通常よりも低く、患者4および5では通常よりもわずかに低かった(表1)。C反応性タンパク質レベルは患者1、3、および5で中程度に上昇しました。プロテインCおよびSとアンチトロンビンによる血栓性素因のスクリーニングは陰性でした。抗リン脂質抗体は、43 IgGリン脂質(GPL)ユニットの抗カルジオリピンIgG抗体レベルがわずかに上昇した患者3でのみ検出されました。補体タンパク質(C1q、C4、およびC3)と活性化産物(sC5b-9)のレベルは、すべての患者で正常範囲内でした。溶血の兆候が見られた患者はいませんでした。

 5人の患者全員がPF4-ポリアニオン複合体に対する高レベルのIgG抗体を持っていました。

 

このPF4-ポリアニオン複合体に対する抗体とは何でしょう?

HIT抗体
(PF4-ヘパリン複合体抗体)
HIT抗体は、ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia;HIT)の発症に関与する血小板活性化抗体です。
HITは、抗凝固の目的で投与されたヘパリンによって免疫学的な機序で産生されたHIT抗体により逆に血栓傾向を生じ、血小板減少や血栓塞栓症を引き起こす重篤な医原病です。発症した場合には、半数近くが血栓塞栓症を合併し、死に至ることもあり、適切な臨床および検査診断が必要です。

http://uwb01.bml.co.jp/kensa/search/detail/1404227

 

またヘパリン起因性血小板減少症とは

ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)

ヘパリンにより血小板が活性化され血小板減少とともに血栓塞栓性疾患を併発する病態• 通常血小板数 15万/μL以下に減少するかヘパリン投与前50%以上に減少する。

• 血小板第 4 因子(platelet factor 4:PF4) とヘパリン複合体に対する抗体(HIT抗体)が発症の中心的役割を果たす。

• 通常ヘパリン投与後5〜10日で発症し、1万/μl以下になることは稀、中止後4〜14日以内に回復する。

• 約20-50%の患者に血栓塞栓性疾患を生じ、出血は稀、その他皮膚壊死、静脈血栓による下肢壊疽、急性アレルギー性反応などを呈する。

http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medi

 

以上の血液検査は日本でも同様に実施できますので、我々臨床医にとって有用な情報です。

この報告の筆者らは、ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)と呼ばれる病態を提案しています。

 

drhirochinn.work

以前の記事でも書かせていただきましたが、日本でもアストラゼネカ社製ワクチンだけでなく、mRNAワクチンでも接種後の出血や血栓症の症例が報告されています。

免疫に対して強く影響する薬であるという共通点がありますので、どのワクチンにせよ接種後の出血や血栓症の出現やその症状には、医療者として十分注意が必要であると強く思いました。

 

最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。 

 

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