ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

マスクとCOVID-19

 

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マスクをしていると何か息苦しさを感じませんか?

暑い夏に向かってマスク着装の不快感は、どんどん増していきます。

顔に触れる不快感とともに、息苦しさは、マスクを付けない人の言い訳になっているかもしれません。

そこで医学的にマスクをつけると実際に健康被害が発生するのかどうか調べてみました。

 

 

1)2021年1月; 146:110411。
オンラインで公開2020年11月22日 。doi: 10.1016 / j.mehy.2020.110411
COVID-19時代のフェイスマスク:健康仮説
循環器内科、退役軍人パロアルトヘルスケアシステム/スタンフォード大学、パロアルト、カリフォルニア州、アメリカ合衆国
⁎住所:VA Palo Alto Health Care System、Cardiology 111C、3801 Miranda Ave、Palo Alto、CA 94304、UnitedStates。

 

「概要
世界中の多くの国が、コロナウイルス病の伝染と感染力を減らすための非医薬品介入として、医療用および非医療用フェイスマスクを利用しました。フェイスマスクの有効性を裏付ける科学的証拠は不足していますが、生理学的、心理的、健康への悪影響が確立されています。フェイスマスクは安全性と有効性のプロファイルが損なわれているため、使用を避ける必要があるとの仮説が立てられています。現在の記事は、COVID-19時代のフェイスマスクの着用に関する科学的証拠を包括的に要約し、公衆衛生と意思決定のための繁栄した情報を提供します。」

「結論
既存の科学的証拠は、COVID-19の予防的介入としてフェイスマスクを着用することの安全性と有効性に異議を唱えています。

フェイスマスクの着用は、生理学的および心理的にかなりの悪影響を与えることが実証されています。これらには、低酸素症、高炭酸ガス血症、息切れ、酸性度と毒性の増加、恐怖とストレス反応の活性化、ストレスホルモンの上昇、免疫抑制、疲労、頭痛、認知能力の低下、ウイルス性および感染性疾患の素因、慢性ストレス、不安およびうつ病。フェイスマスクを着用した場合の長期的な影響は、健康を悪化させる可能性があります。」

この論文は、レビューであり著者固有の実験データはありません。この論文の著者は、「 フェイスマスクがウイルス粒子をブロックするのに効果がない。ウイルスSARS-CoV-2の直径は60 nm〜140 nm [ナノメートル(10億分の1メートル)] ですが、医療用および非医療用フェイスマスクの糸径の範囲は55 µmから440 µm [マイクロメートル(100万分の1メートル)]。これは1000倍以上大きい。SARS-CoV-2の直径とフェイスマスクの糸の直径のサイズの違い(ウイルスは1000分の1)により、SARS-CoV-2はどのフェイスマスクも簡単に通過できます。」と言って、マスクは無意味と論じています。

また、この著者は、「フェイスマスクが呼吸を制限し、低酸素血症と高炭酸ガス血症を引き起こし、呼吸器合併症、自己汚染、および既存の慢性状態の悪化のリスクを高めるという事実がある」ことを前提として論じていますが、その根拠は、パンデミック当初、マスクは、無意味といっていた W H O のレポートです。

マスクが、飛沫感染を防ぐことによって感染を低下させるということは、定説といってよいと思いますので、どうもこの論文は筆者には、一方的な意見のように聞こえます。

 

筆者はその昔、大学院で研究生活をしていて、論文はいくつも書き、他の研究者の論文はたくさん読んでいました。

新しい Method(方法) と独創的な Result ( 結果・結論)の論文でないとすると、Discussion の優劣がその論文の価値を決めます。レビュー(総説論文)がまさにそうです。

結論を先に決めていたとして、その結論をサポートする文献を探し出すことは、それほどむつかしい作業ではありません。

この論文内容は、マスクが嫌いな欧米人の気持ちを代弁したいように聞こえます。

 

次に発表期日が後の二つの論文をご紹介します。 

 

2) 2021; 16(2):e0247414。
オンラインで公開2021年2月24日 。doi: 10.1371 / journal.pone.0247414
安静時および身体活動中の酸素化および換気に対するフェイスマスクの着用の影響

PMID: 33626065 PMCID : PMC7904135 DOI: 10.1371 / journal.pone.0247414

 

PMCは、アメリカ合衆国の国立衛生研究所 (NIH) 内の国立医学図書館 (NLM) の部署である国立生物工学情報センター (NCBI) が運営する、生物医学・生命科学のオンライン論文アーカイブです。

IRB(Institutional Review Board)とは、治験審査委員会の略称。治験が実施される前に、その治験の安全性・有効性と倫理性を審査する役割を持ちます。


「研究デザインと方法
IRBの承認とインフォームドコンセントにより、心拍数(HR)、経皮的二酸化炭素(CO 2)張力、および酸素レベル(SpO 2)を6つの10分間のフェーズの終わりに測定しました:静かに座ってマスクなしで活発に歩く、座っている布製マスクを着用したまま静かに活発に歩き、サージカルマスクを着用しながら静かに座って活発に歩行します。活発な歩行には、心拍数を少なくとも10bpm増加させる必要がありました。低酸素血症(ベースラインから3%以上のSpO 2の減少から94%以下の値への減少)および高炭酸ガス血症(CO 2の増加)の発生個々の被験者のベースラインから5mmHg以上の張力から46mmHg以上の値までの張力を収集しました。

 

結果
50人の成人ボランティア(年齢中央値33歳、併存疾患のある32%)の中で、低酸素血症または高炭酸ガス血症のエピソードはありませんでした(0%; 95%信頼区間0ー1.9%)。

結論
結論として、フェイスマスクは、安静時または身体活動中の50人の成人の酸素化または換気を損なうことはありませんでした。低酸素血症または高炭酸ガス血症のエピソードは、安静時および活発な歩行中の両方で、布またはサージカルマスクのいずれでも発生しませんでした。布製マスクとサージカルマスクによる病的なガス交換障害のリスクは、一般的な成人人口ではほぼゼロです。」

 

 

3)Ann Am Thorac Soc. 2021 Mar; 18(3): 399–407.
doi: 10.1513/AnnalsATS.202008-990CME
フェイスマスクと健康と病気の身体活動に対する心肺反応

「いくつかのモデルからのデータを使用して、身体活動中の呼吸器系に対するさまざまなフェイスマスクと呼吸器の影響に関する文献をレビューします。

全体として、入手可能なデータは、呼吸困難が増加し、活動に伴う知覚される努力を変える可能性がありますが、身体活動中にフェイスマスクによって課される呼吸、血液ガス、およびその他の生理学的パラメータの仕事への影響は小さく、しばしば小さすぎて検出できないことを示唆しています。非常に激しい運動中でも。フェイスマスクを着用した状態での運動に対する生理学的反応の性別または年齢による違いを裏付ける現在の証拠はありません。入手可能なデータは、健康な個人の身体活動中に布または外科用フェイスマスクを使用することの悪影響はごくわずかであり、重度の心肺疾患を持つ一部の個人にとって、運動耐容能に大きな影響を与える可能性は低いことを示唆しています。」

 

「しかしながら中には、マスクは、健康にとって有害であると主張する研究者も存在します。

これらの懸念は主に、呼吸力学とガス交換に深刻な影響を与えるように意図的に設計されたデバイスを評価する研究から導き出されました。
入手可能なデータは、健康な個人の身体活動中に布または外科用フェイスマスクを使用することの悪影響はごくわずかであり、重度の心肺疾患を持つ一部の個人にとって、運動耐容能に大きな影響を与える可能性は低いことを示唆しています。

 

上記が、この論文の概要です。

一番目の論文と全く反対の内容です。面白いことに両方ともレビュー論文で同じフェイスマスクがテーマです。レビューに選ぶ文献の差で結論が全く相反する内容になります。

この3番目の論文は、興味深いことに、高齢者、小児、男女差、心肺疾患の患者、などの集団でもマスクの影響を考察しています。

「①高齢者 

運動に対する生理学的および知覚的反応に対する加齢の影響は十分に特徴付けられています。この集団での運動に対する心肺反応に対するフェイスマスクの効果に関するさらなるデータが必要です。しかし、加齢の影響に関する現在の理解に基づくと、運動中にフェイスマスクを着用することが、4つの主な理由で若年者と高齢者に異なる影響を与える可能性は低いです。 」

 4つの理由は多分に専門的ですので、ここでは割愛します。

「②小児

成人と比較して、乳児と幼児の呼吸生理学には重要な違いがあります。乳児や幼児は呼吸の副筋が発達していないため、ほとんどの呼吸仕事は、横隔膜に依存しています。呼吸筋の働きの増加は、主に呼吸数の増加によって達成され、横隔膜は成人よりも早く疲労する可能性があります。
乳児および幼児は、さまざまな重大な健康上の脅威からの成人よりも呼吸不全のリスクが高くなります。」 

 「③性別による違い

男性と比較して、女性は肺と胸郭が小さく、大きな気道が不釣り合いに小さい。呼吸器系の形態におけるこれらの性差は、呼吸仕事、呼吸困難、血液ガス恒常性、および心血管機能に影響を与えることにより、運動に対する統合的反応に影響を及ぼします。
高齢者(60〜80歳)の中程度の強度の運動中に呼吸仕事を増加させるために外部抵抗を追加すると、絶対呼吸仕事が大幅に増加します。」

高齢女性では、マスクの弊害が出やすいようです。

 

「④ 心肺疾患の患者
表面的には、呼吸仕事のわずかな増加の追加と、あらゆるタイプのフェイスマスクによる低濃度のCO 2の再吸気は、心肺疾患の根底にある個人にとってより多くの問題を引き起こすように思われます。
より効率的なフィルタリングマスクは、重度の非喘息性肺疾患を持つほとんどの人にとって困難であり、酸素濃度計による症状と動脈飽和の綿密なモニタリングが必要になる場合があります。
心肺疾患における運動でのフェイスマスクの使用に関するデータは非常に限られています。COPDがあり、呼吸困難スコアが高いか、呼吸機能が著しく損なわれている患者は、6分以内の歩行テストなどの適度な運動に耐える可能性が低い可能性があります。」

実際には、心肺疾患の患者のデータがとりにくいようです。 

 

高齢女性、小児、心肺疾患の患者では、マスクには注意した方がいい場合があるようです。 

しかし多くの場合、マスクの弊害は、現在認められていないようです。

布、ウレタンではなく、サージカルマスクやN-95マスクでこの夏も乗り切りましょう。 

 

最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。

 

 

 

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