ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

腰痛・肩こりと Q O L

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Research article Open Access Published: 05 January 2021
The effect of low back pain and neck-shoulder stiffness on health-related quality of life: a cross-sectional population-based study
Gentaro Kumagai, Kanichiro Wada, Hitoshi Kudo, Sunao Tanaka, Toru Asari, Daisuke Chiba, Seiya Ota, On Takeda, Kazushige Koyama, Tetsushi Oyama, Shigeyuki Nakaji & Yasuyuki Ishibashi
BMC Musculoskeletal Disorders volume 22, Article number: 14 (2021) Cite this article

健康関連の生活の質に対する腰痛と首肩のこわばりの影響:横断的人口ベースの研究

 

整形外科の外来で伺う愁訴の内、肩こりと腰痛は非常に一般的で、これにひざ痛を加えればほぼすべて出揃うぐらいです。

いずれも生活の質(QOL)を低下させますが、両者が併存している人のQOLは、より大きく低下していることをデータとして明らかにした研究結果が報告されました。

まあ痛みが増えて不自由な体の範囲も増えれば、Q O L もその分低下するだろうとイメージ的には思いますが、論文を一緒に見てみましょう。

 

drhirochinn.work

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メソッド
サンプルには、過去3か月間にNSS(肩こり:Neck-shoulder stiffness)およびLBP(腰痛:Low back pain)症状のある1122人の被験者(男性426人、女性696人)が含まれ、NSS、LBP、併存するNSSおよびLBP症状(併存)、または症状なし(NP)に従ってグループ化されました。彼らは、MOS 36項目のショートフォーム健康調査(SF-36)を完了しました。健康QOLは、年齢を調整した後、8つのドメインスコアと身体的要素の要約(PCS)および精神的要素の要約(MCS)スコアによって評価されました。

 

SF-36(MOS Short-Form 36-Item HealthSurvey)は,世界で最も広く使われている自己報告式の健康状態調査票です。特定の疾患や症状などに特有な健康状態ではなく,包括的な健康概念を,8つの領域によって測定するように組み立てられています。わずか 36項目の質問,5分程度の回答時間で包括的な健康度を測定するので,さまざまな疾患を持つ患者の健康度の記述,治療やケアのアウトカム評価,一般住民の健康調査など,多岐にわたる目的に使用されており,SF-36を使用した文献ですでに発表されているものは,2,000以上にのぼります。

又、SF-36はQOLの評価として、身体的側面と精神的側面の双方をスコア化できます。

 

過去3カ月間の肩こりや腰痛の症状の有無を質問したところ、両者いずれもない人が31.8%、肩こりのみが22.5%、腰痛のみが16.2%であり、両者が併存している人が29.4%と約3割を占めていました。

 

結論
要約すると、NSSとLBPが併存している被験者(男性の23%と女性の33%)は、無症候性の被験者またはNSSのみの被験者よりもQOLが低かった。さらに、NSS / LBPの併存疾患は、男性と女性の両方でメンタルヘルスの悪化と関連していた。NSS / LBPの併存疾患も、女性の身体的健康QOLを低下させました。私たちの現在の調査結果は、鑑別診断や非特異的な首の痛みや腰痛を防ぐための戦略を考案する際に考慮することができます。

 

と熊谷らは、述べています。

 

まとめると、肩こりと腰痛の併存は、男性と女性双方のメンタルヘルス状態の悪化と関連しており、女性では身体的QOLが低いこととも関連していました。この結果について著者らは、「肩こりと腰痛が併存する場合、身体的・精神的QOLへの影響がより大きいと考えられる」とした上で、「この知見は、非特異的な肩こり・腰痛の予防や、QOL低下を来す疾患の鑑別に援用できるのではないか」と述べています。

 

 筆者が日頃整形外科医として日常診療に携わっていて、経験則として確信していることは、体の複数個所の症状が同じような時に発症する場合の多くは、何か仕事(家事、肉体労働)や趣味その他で多大に体に負担がかかっていて発症するか、系統的な病気(関節リウマチや脊柱管狭窄症、線維筋痛症、リウマチ性多発筋痛症、その他)で発症することがほとんどです。

この論文のサンプルでは、脊椎外傷または関節リウマチなどの脊椎に影響を与える全身性疾患の病歴がある被験者は、研究から除外されたとのことですから、 何か仕事(家事、肉体労働)や趣味その他で多大に体に負担がかかっていて発症した人が多く含まれているものと思います。

この研究で、男性で肩こりと腰痛が併存している群では、精神的QOL(MCSスコア)が他の全ての群(肩こりのみの群、腰痛のみの群、症状のない群)よりも有意に低いことが明らかになったようですが、日頃仕事や家庭の悩み事(その多くは金銭的なものかもしれませんが)をたくさん抱えた一家の主がつい過重労働になってしまい症状を発症してしまったのかなと筆者には思えます。

この場合、精神的スコアが低いのは結果ではなく原因の一つであるということになります。 

また 女性では、身体的QOL(FCSスコア)は腰痛のみの群が最低でしたが、併存群は2番目に低い値で、肩こりのみの群や症状のない群よりも有意に低値だったようです。

これは当然で、”腰”のほうが”肩”より移動時の Q O L 上重要であるのが理由であると思います。

 女性のMCSスコア(精神的要素)は、併存群が最も低く、腰痛のみの群や症状のない群との間に有意差が存在したとのことですが、これも家事や家庭の事でもともと 非常に悩んでいたとするとその”身体化(精神的理由のみで身体的症状が出る)”で症状が出たとも考えられます。

筆者にも経験がありますが、研究データには多くのバイアスや制限がかかります。

予断を許さないデータのとり方がどうしても重要になってくると思います。

 

今回も最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。

 

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