ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

妊婦へのNSAID

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薬の専門家は薬剤師ですが、実際に患者さんに薬を処方するのは、医師ですから、彼ら以上に、薬に対して知識・経験がなければいけません。

筆者はあくまで個人の勉強を第一義にして、今までの知識・経験を踏まえできるだけ調べたうえで、自分が納得して投稿させていただいているつもりですが、そうでない場合は、是非専門家の皆さんに教えて頂ければと思います。

 

drhirochinn.work

 

厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課は、今年2月25日付の課長通知にて、妊婦全般が禁忌になっていない非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)について添付文書改訂を指示しました。

 https://www.pmda.go.jp/files/000239396.pdf

 

NSAID {Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs(非ステロイド性抗炎症薬)の略称} の中の対象薬剤は、シクロオキシゲナーゼ阻害作用を有するNSAIDs(妊婦を禁忌とする薬剤を除く)となっています。

我々がよく使うロキソプロフェンナトリウムやセレコキシブ、アスピリン、さらには一部湿布(ロコアテープ)が含まれます。

改定された添付文書の中で、

「NSAIDs の妊婦への投与例で認められた胎児の腎機能障害及び尿量低下、それに伴う羊水過少症に関するリスクに基づき、米国 FDA にて、妊娠 20~30 週の妊婦に対する NSAIDs の処方は限定的にし、必要な場合にも、最小限の用量で可能な限り最短期間の処方とする旨の注意喚起を行うとの措置情報を受け、本邦における添付文書改訂の必要性及び措置範囲を検討した。」

と書かれていますが、日本では妊娠全般になっています。

 

私は、今まで妊婦や喘息の患者さんには、まずNSAID は、処方しません。しかし痛みを訴えてこられるかたに、我慢しろとは言えないので、妊婦さんには、やむをえず湿布は処方していました。

局所製剤(湿布、軟膏)は、「全身性の作用が期待される製剤と

比較し相対的に曝露量が低いことから、新たな注意喚起は不要と

判断した。」としています。

ロコアテープ以外の湿布、軟膏は、引き続きいいようです。

 ちなみに、妊婦に処方禁忌の N S A I D は、


アセメタシン[ランツジール],アンフェナク[フェナゾックス],インドメタシン[インダシン],エモルファゾン[ペントイル],オキサプロジン[アルボ],サリチル酸,ジクロフェナク[ボルタレン],スリンダク[クリノリル],プログルメタシン[ミリダシン],メロキシカム[モービック]など

 禁忌の理由
胎児循環持続症(PFC),胎児の動脈管収縮,動脈
管開存症,羊水過少症等の恐れがあるため。

これは、検索サイトによって少しずつ違いがあります。

 

我々がいつも机の上や白衣のポケットに入れてよく使う薬の本というと「今日の治療薬 南江堂」です。この本を参考に鎮痛薬を調べてみます。

鎮痛薬とは一般に、

  1)アセトアミノフェン

  2)N S A I D s

               ① サリチル酸系  :  歴史的薬剤  アスピリン

      ② アントラニル酸系 :メフェナム酸(ポンタール)

      ③ アリール酢酸系 :  強力だが消化管障害が多い                                              

         ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)

      ➃ プロピオン酸系 :効果と安全性のバランスがいい

            ロキソプロフェン(ロキソニン)

      ⑤ コキシブ系   :  選択的COX-2阻害薬 

            セレコキシブ(セレコックス)

      ⑥ オキシカム系 :メロキシカム(モービック)

      ⑦ 塩基性

  3)オピオイド

    麻薬性鎮痛薬とその類似薬の総称

    弱オピオイドのトラマドール塩酸塩(トラムセット、

    トラマールなど)がよく使われる。

  4)神経障害性疼痛緩和薬   プレガバリン(リリカ)

                ミロガバリン(タリージェ)        

に分類されます。

この中でシクロオキシゲナーゼ阻害作用を有する NSAIDs とは、塩基性薬以外の上記N S A I D s すべてということになります。今まで妊娠全般に禁忌薬だったものは、引き続き不可として残りのN S A I D s も注意喚起されたということです。

 

A)妊娠中の薬剤使用におけるリスク評価基準

  現在我が国に客観的な基準はなく、添付文書に「治療上の有益性が危険性を上回る場合のみ投与」と記載あるのみです。

一方米国や豪州では、基準が設けられていました。

FDA分類:A, B, C, D, X FDA: アメリカ⾷品医薬品局
    http://dailymed.nlm.nih.gov/dailymed/about.cfm (DailyMed)

    現在は閉鎖になっています。
オーストラリア (ADEC) 分類:A, C, B1, B2, B3, D, X 

     ADEC: オーストラリア医薬品評価委員会

    (ACPM: 処⽅箋医薬品諮問委員会)
 http://www.tga.gov.au/hp/medicines-pregnancy-categorisation.htm

しかしこの2つのカテゴリーは、アルファベットが同じでも内容は大きく違います。

最終的には、米国・豪州の医薬品添付文書を確認しなければならないそうですが、下記が参考になるそうです。

<妊娠・授乳期の薬剤,第11版>

       Drugs in Pregnancy & Lactation, 11th ed.
       - A Reference Guide to Fetal & Neonatal Risk

 

B) 授乳中の薬剤使用について

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK501922/

 

Medications and Mothers "Milk 2019,18th Ed"のHaleらの基準と分類

 

「妊娠と薬情報センター」国立成育医療センター

 

 

にて情報が得られるようです。

 

今回の記事を書いていて少しわかったのは、薬に関しての禁忌薬を含むガイドラインとなるべき公的な統一されたデータベースが、日本にないということです。

誰でも(医師でも患者でも)簡単に無料で閲覧できる薬の情報サイトがあってしかるべきです。

日本産で国内しか流通していない薬を海外のサイトでは調べられません。

しかも日本のサイトは情報を得るまでが煩雑で、少なくとも一般の人には解放されていない気がします。

 

 以上、今回は妊娠と薬について考えてみました。

最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。

 

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