ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

COVID-19と医の倫理

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目次

医の倫理

ジュネーブ宣言

原則主義と美徳

二重忠誠

医の倫理は誰が決めるか

公衆衛生

国際保健

まとめ

今年の春先よりの全世界的な問題は何といっても” C O V I D -1 9 "ですね。

日本では当初より所属が公立・民間を問わず医師がマスコミに出てきて様々な意見を述べています。

報道機関や政府に依頼されてのこととは言っても、相当暇なのでしょうか?収入を当てにしてのことでしょうか?自分の名前を広めたいのでしょうか?

私が思いますに、恐らくそれには”医の倫理(medical ethics )"が、大きく関わっていると思います。

退屈な話かもしれませんが、4~5分お時間をいただきたいと思います。

医の倫理

仕事上患者さんの生死を左右するような重大な決断をする経験を、たくさん積むことによって、我々医師は医の倫理を自然に身につけていくものと思われます。

紀元前5世紀のギリシャの医師であるヒポクラテス以降、倫理が医学に不可欠な要素であり、医療は専門職(profession)であって

医師は自分の利益よりも患者の利益を優先することを公に約束するものという概念が生まれました。

また、医療とは SCIENCE であるとともに ART であるという人がいますが、疾患の兆候を認識し健康を回復する SCIENCE としての側面に加えて、教養・人文科学・社会科学的なものから得られる洞察やデータにより豊かになるという側面もあります。

医の倫理は人権( human rights ) の発展に大きな影響を受けており、また法 ( law ) とも密接に関係しています。

医の倫理は、法より高い基準の行為を要求し、時に医師に非倫理的な行為を要求する法には従わないことをさえ要求します。

医の倫理の特徴としては、医師には非常に高い次元での

① 共感 ( compassion ) :他者の苦痛に対する理解と気遣い

② 能力 (competence ) : 患者を死や深刻な病状から回復させるための科学的・倫理的な知識、技術

③ 自律 ( autonomy ) :医療の核心的価値であり、自由に医学教育や医療水準を進歩・発展・決定するやり方。

医の倫理上、以上の三点が要求されます。

W M A ( 世界医師会 ) のジュネーブ宣言にも述べられています。

ジュネーブ宣言

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原則主義と美徳

倫理的・道徳的な意思決定や行為に際して重要なのは、

原則主義 ( principlism )

・自律性の尊重   

・善行   

・無危害

・正義

の4原則と

美徳 ( virtue ethics )

・共感

・正直

・思慮分別

・献身

であるといわれています。

つまり理念と行動の具体的内容を示しています。

二重忠誠  

自由主義社会以外の国では特にそうかもしれませんが、二重忠誠( dual loyalty ) と言ってその社会の利益を優先すべきか、患者の利益を優先すべきか二重忠誠の板挟みになることがあります。

多くは患者の利益を優先すべきですが、そうでない場合もしばしばあります。

医の倫理は誰が決めるのか

現実的に

自由主義社会か

宗教色が強い社会か

政治色が強い社会か

により、何が倫理的かを誰が決めるのかが異なってきます。

しかし、いくつかの基本的倫理原則は、ほぼ合意できていると思いますし、基本的人権として国連の世界人権宣言やその他の文書でも示されています。

公衆衛生

C O V I D -19 は公衆衛生上の問題ですが、公衆衛生 ( public health )という言葉は公衆の健康という意味だけではなく、個人よりも集団の観点から健康を扱う医学の専門分野を指します。

医師らは、感染症や健康に対する危険から公衆を守るための活動に従事し、健康促進のための公共政策に対する助言や主張も行わなければなりません。

ですから、マスコミで発言する医師だけでなく、我々も個々の患者の健康状態に影響を与える社会・環境的決定因子を認識しておく必要があります。

国際保健

医師には自分の住んでいる社会に対して責任がありますが、国際保健( global health )という言葉が示すように、国境を越えた保健や経験から影響を受ける事柄に対して協力して解決に取り組むことが求められます。

ある国の一人の医師が感染性の高い病気に対する認識と処置を誤ると、他国の人々への甚大な被害を及ぼす恐れがあります。

今日の COVID-19 感染症はまさにこれであると思います。

まとめ

以上、日本医師会発行の「 W M A 医の倫理マニュアル」を中心に、自分なりの考察を加えてお話しました。

私なりに春先からの C O V I D -19 の経過を考えてみますと、中国発各国経由で輸入された V I R U S に対して、まず水際対策で後手に回るも、蔓延直前で国民の積極的な自粛の協力と政府・医療者・保健所等のクラスター対策が功を奏して、鎮静化させることができました。

しかし自粛中の経済・財政の落ち込み、飲食・観光業者などの困窮に対し、更なる税金を投入せず経済を浮上させようと、G o to T r a v e l ,E a t などのキャンペーンを張り、その結果激しい第三波を迎えつつあります。

この間、常に厳しい生死にかかわる仕事を強いられているのは、医師と看護師などの医療従事者たちです。

我々は、Go to travel やGo to eat などを楽しく利用している人々の姿をマスコミ等で見ますと、正直非常に複雑な気持ちになります。

我々医療従事者はもし罹患すると周囲への影響が甚大かつ深刻な結果につながる為、自らも全く自粛そのものの生活を春先より続けております。

マスコミに登場する医師たちは、「医の倫理」に基ずき「自律 性」を持ちながら、「利益相反がある時は全て患者側に立つ」と言う根本理念に立ち帰って、Evidence のある情報発信や提言を政府・国民に行って欲しいと切に思います。

お問い合わせフォームよりのご質問をお待ちしております。

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