ある整形外科医のつぶやき

外来の診察室で思うこと

病院でのX線検査の ”放射線被爆” 気になりませんか?

この度、全国保険医団体連合会より発表されましたが、新型コロナウイルス感染拡大により5月の診療分において、前年同月と比べ、約9割の医療機関で外来患者数が減少。8割以上で保険診療収入が減少、その内収入減が30%以上の医療機関は、医科で2割、歯科で3割となったそうです。
「コロナ感染拡大の下で受診を抑制した結果、がんや心不全の進行、重症化が起こった。検査の延期や服薬の中断による心疾患や糖尿病など慢性疾患の病状が悪化する事例や高齢者の外出控えによる A D L 低下、認知症進行の例も多々指摘された。」と発表されております。
皆さんはどう思われますか? 
私も呑気にブログなんか書いている場合ではないかも知れません。

今回は、医療被曝について書かせていただきます。
整形外科外来では、レントゲン撮影させて頂くことが多いですが、この時患者さんから「つい先日○○病院でとられたばっかりですが、大丈夫ですか?」などという質問をされることが時々あります。

どれくらいの被ばく量なのか即答できる医者はかなり少ないと思います。


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胸部レントゲンの被ばく量: 0.05~0.1mSv
腹部単純撮影: 1.5mSv
腰椎撮影: 1.5mSv
頭部 C T : 0.5~1.5mSv
胸部 C T : 7.0mSv
腹部 C T : 10mSv
胃のバリウム検査:3~5mSv

あくまで目安ですが、以上のように被ばくします。
又、年間の自然放射線からの被ばくは、
世界で2.4mSv、日本で1.1mSv
飛行機で東京ーニューヨーク往復:0.2mSv
被ばくします。

1000人が全身に100mSvの被ばくを受けた場合、癌により死亡する人数が300人から305人に増えます。つまり100mSvの被ばくで生涯の癌による死亡率が0.5%上昇するといわれています。
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実際、以上のようにレントゲン検査において相応には被ばくしますが自然界からの放射線やがん発生における生活習慣の関与などを考えると一概に大きなリスクとは言えないと思われます。
risk and benefit を考えてレントゲン検査は適切に実施されるべきと考えますが、実施するにあたっては、できるだけ放射線の低減に努めるべきであると真摯に思います。

当院の対策としては、実施に当たってできるだけ曝射回数を減らすこと。若い患者さん、特に女性は腰椎X P の代わりにM R I をできるだけ撮らせてもらったり、骨折の患者さんは定期的にレントゲン検査を実施することになりますが、できるだけその回数を減らしたり一回当たりの枚数を減らしたりします。
筋、筋膜性腰痛と思われる患者さんは、詳細に身体所見を取ったうえで内服薬、外用薬のみ処方し症状が続くときのみ X P ( M R I )検査するというような対応もしています。ただしこの場合「あそこは、レントゲン検査もしてくれなかった。」と言われる可能性もあります。我々医療者とともに患者さん側の理解も必要なのは言うまでもありません。
レントゲン検査を省略したことによって、重大な病気を見逃したりすれば、これは全く本末転倒であり個々の患者さんをよく見極めて、必要最小限度実施すべきと考えます。

結局、身体所見を詳細にとり整形外科医としての診断能の向上に日々努めるとともにレントゲン検査は極力控え(実施の場合は、回数や照射条件などの工夫をして) M R I や超音波検査を多用するようにしながら医療被曝の低減に努めるべきであると思います。


参考文献
高橋雅士:新胸部画像診断の勘ドコロ、12-13、メジカルビュー社、2014.
宮本俊之:整形外科における被ばくリスクと最新技術、2016.
酒井一夫, INNERVISION(25.6), 2010.
月刊保団連、No.1332:40-46,10,2020.



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